2020 Fiscal Year Research-status Report
酸化HDLに焦点を当てたNASHの発症機序の解明と診断マーカーの探索
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19K20174
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
櫻井 俊宏 北海道大学, 保健科学研究院, 講師 (60707602)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非アルコール性脂肪性肝炎 / HDL / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と酸化HDLの関連は未解明である。最近我々は酸化HDLが肝培養細胞で脂肪滴を形成させ、その脂肪滴は酸化されていることを見いだし、酸化HDLがNASHの発症に関係する可能性を考えた。そこで初年度は、ヒト培養肝細胞を用いる生化学実験により、酸化HDLがNASHの発症機序にどのように関係するかを検証することを目的とした。結果として、酸化HDLの肝細胞に対する毒性を確認した。細胞中の過酸化脂質(TG-OOH)を質量分析により測定し、酸化HDL添加でTG-OOHの増加が確認できた。また、酸化HDL群では、過剰な脂肪蓄積を防ぐために、脂肪酸合成及び脂肪滴合成が抑制される可能性が示唆された。今年度は、同様の細胞実験の条件で、oxHDLがミトコンドリアに与える影響を中心に調査した。ミトコンドリアの代謝に関連する遺伝子を標的として遺伝子発現を解析したところ、酸化HDL群ではNRF1(エネルギー産生)は有意に減少し、PGC1α(エネルギー産生)は減少傾向を示した。また、ミトコンドリア染色による形態観察において、コントロール群ではミトコンドリアが線状であったのに対して酸化HDL群では球状を示した。球状のミトコンドリアは脂肪肝で見られるという過去の報告と一致し、球状のそれはエネルギー代謝が低下する場合に起こると考えられる。ミトコンドリアは融合と分裂を繰り返すが、融合に関与するMFN2遺伝子の発現量が酸化HDL群で有意に低下したことから、この低下が融合の抑制に働いてミトコンドリアが球状を示した可能性があると考えられた。したがって、酸化HDLは脂質代謝のみならずミトコンドリア代謝の変化をもたらす可能性があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍で実験室入室の制限がかかり、当初の計画の通りに進めることは困難な状況であった。そのような条件の中で鋭意研究した結果、ヒト肝培養細胞を用いた研究で、酸化HDL刺激ではミトコンドリア生合成に関連する遺伝子群の低下が見られ、ミトコンドリアの形態も変化することを明らかにすることができた。これらの結果は本研究の重要な知見であり、今後の研究進展への大きな一歩であると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、酸化HDL刺激によるミトコンドリア機能の低下を深く調査するために、ミトコンドリア内膜に存在するCardiolipin(CL)、その酸化物であるCardiolipin hydroperoxides、未熟なCLでありエネルギー代謝効率の悪いmonolysocardiolipinの脂質プロフィールを確認したいと考える。また、細胞実験で細胞外フラックスアナライザーによるミトコンドリア機能の低下の有無を確認したいと考える。 以上を解析することで、酸化HDL刺激に対する肝細胞の応答についての全容解明に繋げていきたいと考える。
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