2020 Fiscal Year Research-status Report
肝臓アデノシン動態を標的とした肝星細胞活性化制御によるNASH進行防遏方策の確立
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19K20186
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
山口 桃生 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (30804819)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD) / 非アルコール性脂肪肝炎(NASH) / 肝星細胞(HSC) / プロスタグランジンE2(PGE2) / アデノシン(adenosine) / mRNA-seq / アデノシン動態 / 肝線維化 |
Outline of Annual Research Achievements |
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の一部は、線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へと進行する。肝星細胞(HSC)は肝傷害時にコラーゲンを分泌する活性型に形質転換することから、NASH進行にはHSCの活性化が必須である。「炎症物質PGE2によりHSCは活性化されるが、アデノシン受容体阻害条件下ではPGE2は逆にHSCの活性化を抑制する」という申請者らが得た結果より、「アデノシンがNAFLDからNASHへの進行を決定付けるKey分子であり、炎症時での肝臓内アデノシン動態の変化がNASH進行のトリガー刺激となる」という仮説を立てた。本研究では、この仮説を証明し、NASHの予防法や治療法への応用につながる基盤的知見を得ることを目的とする。 本年度は、アデノシン受容体(AR)阻害がHSC活性化に対するPGE2の作用を反転させる機構の解明を目指し、①静止型HSC、②活性型HSC、③AR阻害薬を処置した活性型HSC、④PGE2を処置した活性型HSCおよび、⑤AR阻害薬とPGE2を共処置した活性型HSCより抽出したRNAを用いて、mRNA-seqによるmRNA発現網羅的解析をおこなった。その結果、⑤の共処置群においてのみ発現変動する特徴的な遺伝子群を抽出することで、“AR阻害がHSC活性化に対するPGE2の作用を反転させる機構”への関与が示唆される候補シグナルをいくつか見出した。また、3種類の肝線維化モデルマウスを作製し、各モデルマウスの肝臓より単離した肝実質細胞およびHSCを用いて、アデノシン動態に関わる分子の発現量を測定した。その結果、肝線維化の進行に伴い、肝実質細胞においてアデノシン変換酵素、アデノシン代謝酵素の発現が変動していることが明らかとなった。今後は、肝実質細胞とHSCの共培養系を用いて、肝実質細胞におけるアデノシン動態変化がHSCの活性化に及ぼす影響を解析する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「アデノシン受容体阻害が肝星細胞(HSC)活性化に対するPGE2の作用を反転させる機構の解明」に関して、まだ詳細な作用機序の解明には至ってはいないものの、mRNA-seqを用いたパスウェイ解析により関与が示唆される候補シグナルをいくつか見出すことができた。また、計画通り「NASH発症と肝臓内アデノシン動態変化との関係」の解明に必要な3種類の肝線維化モデルマウスを作製し、各モデルマウスの肝臓より単離した肝実質細胞において、肝線維化の進行に伴い、アデノシン動態関連遺伝子のmRNA発現が変動していることを明らかにした。最終年度に計画していた「HSC近傍細胞でのアデノシン動態がHSC活性化に及ぼす影響」に関しては、マウス由来肝実質細胞株AML-12細胞を導入し、肝実質細胞におけるアデノシン動態変化がHSC活性化に及ぼす影響の解析を進めていることから、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、3種類の肝線維化モデルマウスを作製し、各モデルマウスの肝臓より単離した肝実質細胞を用いて、線維化の進行に伴い、肝実質細胞においてアデノシン動態関連遺伝子のmRNA発現が変動していることを明らかにした。今後は、この結果を基に、肝実質細胞とHSCの共培養系を用いて、肝実質細胞におけるアデノシン動態変化がHSC活性化に及ぼす影響を解析し、その原因となる分子を同定する。また、現在、任意の週齢において、Cre-ER発現細胞特異的に、任意の分子を発現制御することを可能とさせるRosa26-f/f-GFP-Cas9 マウスを用いて、肝実質細胞もしくはHSC特異的にCas9を発現させるマウスを作製中である。作製されたマウスを用いてNASH発症と肝臓内アデノシン動態変化との関係を明らかにする。NASH誘導刺激と同時にtamoxifen を処置し、前述の検討で同定された候補因子をノックアウトもしくはノックインするように設計したsgRNAを発現させるプラスミドをハイドロダイナミック遺伝子導入法により導入し、肝実質細胞もしくはHSC特異的における発現調節を行う。各マウスから肝臓の凍結切片を作製し、HE染色、Masson’s trichrome染色、肝線維化の指標であるコラーゲンのsirius red染色、そして活性型HSCの指標である平滑筋型α-actinと静止型HSCの指標であるグリア線維性酸性タンパクの免疫染色を行う。さらに、肝臓をホモジナイズし、肝線維化、HSC活性化、肝傷害・炎症マーカーの発現量をRT-qPCRやwesternblottingにより定量し、肝傷害や肝線維化を評価する。
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