2019 Fiscal Year Research-status Report
可逆的アクチュエーションによって自律的に駆動する印刷紙ロボットの開発
Project/Area Number |
19K20377
|
Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
重宗 宏毅 芝浦工業大学, 工学部, 助教 (40822466)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | ペーパーメカトロニクス / 自動立体構造形成 / ソフトアクチュエータ / ソフトロボット / ソフトマシン / 溶液印刷 / 浸透現象 / 紙材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者は,インクジェットプリンタを用いて印刷した線に沿って紙が自律的に折れ曲がる構造形成法を提案した.これまでは,構造形成を目的とした一方向の不可逆な折れ曲がりについて着目してきた.本研究では,湿度応答性材料をインクに混合することで,湿度変化によって可逆的に駆動するアクチュエータを開発する.可逆的アクチュエータの開発は,1枚の紙に構造とアクチュエータを同時に印刷して,人の手を借りずに動く印刷紙ロボットの開発に繋がる.自律印刷紙ロボットを開発し,その新奇ロボットに潜む学理と産業展開を考究する. 初年度は、潮解性を持ち湿度応答性のある塩材料について選定を行った。これまで開発してきた構造形成用インクに湿度応答性材料を混入するためには、水溶性の材料を選定する必要がある。温度、湿度、化学式によって多様な湿度応答性を持ち、材料によって飽和濃度も異なる塩材料の中から、本研究に適した材料の選定を行った。 また、湿度応答性アクチュエータとして自走油滴にも着目した。自走油滴は、水溶液の中に油滴を浮かべ、中で加水分解反応に起因するマランゴニ対流が発生することによって駆動する。油滴として使用している材料は温度・湿度応答性が高く、温度・湿度が変化することによって粘度・表面張力などの液体特性が大きく変化し自走性能に大きく影響することが確認された。可逆的紙アクチュエータに使用している温度・湿度の安定した実験系の中で解析を繰り返すことによって、自走油滴の湿度応答性アクチュエータとしての特性を調査している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、塩水溶液の紙への浸透特性と塩水溶液による紙の膨潤と乾燥特性の調査を行った。まずは様々ある塩の中から本研究で使用するものを特定した。具体的には、水和パラメータと飽和濃度の観点から、より大きく紙の湿度応答特性を変化するものを選定した。実際に様々な塩溶液に対して紙を浸漬し、浸透膨潤特性と乾燥特性を観察したところ、より水和パラメータが高く濃度も高い材料からより大きな湿度応答性が得られた。さらに、インクジェットプリンタに詰めて本塩溶液を印刷するために、溶解した溶液の液体特性(粘度・表面張力)を調査したところ、現在使用しているプリンタでは塩添加による粘度変化に対応できないことが判明した。従って、インクの液体特性・プリンタの吐出性能を精査することによって開発した溶液を安定的に吐出することに成功した。以上より、水和パラメータと濃度を調整することによって、自分が得たい所望の湿度応答性を紙に与えられる。今回はより高性能のアクチュエータ開発を目的とし、最も湿度応答性の良くなるパラメータを実験値より決定した。 同様に湿度応答特性のある自走油滴アクチュエータについて、油滴を水面に浸された状態にし、上から特定の形にしたフレームを油滴にかぶせることによって、油滴の形状を制御し、油滴の自走方向を制御することに成功した。油滴の形状を制御することによって、内部で発生する対流の境界条件が変化することが結果的に油滴の自走性能の制御に繋がる。本成果については、英文学術論文誌AIP Advancesにて発表された。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は印刷する溶液が決定されたため、それらを実際に紙に印刷した際に起こる折り曲がり現象の調査を行う。基礎的な紙と塩溶液の湿潤・乾燥特性は得られているため、それと紙の折り曲がり特性との関係を解析する。これは、現在詳細までは理解の進んでいない、紙の折り曲がりメカニズムのさらなる探求ともつながる。折り曲がりメカニズムの探求は、さらに折り曲がるシートの発見や開発も可能になる。塩溶液の特性は理解されたため、今後は他の紙材料に対しても同様の実験を行うことで、思いがけなく反応性の高い材料等が発見されることも期待できる。紙の成分や繊維の配向特性等を調査することによって、より良く湿度応答する材料を探索することも可能になる。最近の実験より吐出量によって折り曲がり角度が変化していることが確認されている。吐出量を変化させることによって、紙への溶液の浸透深さも変わってくる。結果的に紙内に残留する塩の浸透深さも変わってくることが予想されるため、SEM-EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopyなどを用いることによって、物質の残存度合いを調査する。溶液の浸透深さは紙断面の現象であり、リアルタイムでの解析が難しい。折り曲がり角度や残留物の浸透深さを解析することによって、溶液の浸透を推定する手法を提案する。 自走油滴についても、湿度アクチュエータとしての機能が期待される。フレームに油滴を閉じ込めるために、油滴は水溶液の界面に浸された条件で実験を行っている。湿度によって水溶液の揮発性が変化するため、湿度によって水溶液の表面温度が変化することが確認されている。今後は様々な湿度環境下で油滴アクチュエータの挙動を解析することによって、水溶液表面の温度変化が水溶液/油滴界面の加水分解反応にどのように影響を与え、結果的に油滴ダイナミクスに見られる変化について調査する。
|