2020 Fiscal Year Research-status Report
都市大気中非吸湿性スス粒子の表面状態の測定と観察による評価
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19K20438
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
上田 紗也子 名古屋大学, 環境学研究科, 学振特別研究員(RPD) (00612706)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 大気エアロゾル / 黒色炭素 / 都市大気 |
Outline of Annual Research Achievements |
ススは、黒色炭素を母体とした強い光吸収性を示す物質であり、その大気加熱効果は地球温暖化へ正の影響を及ぼす。ススは非吸湿性物質を母体とするが、大気中での不均質反応や凝集により硫酸塩など吸湿性の二次生成物質が付着する。この過程は雲-降水過程を経験した際の大気からの除去効率を変えるため、ススの空間分布や輸送量を正確に見積もる上で重要である。本研究は、大気中のスス粒子の表面状態(水との接触角や微量付着物の存在)を評価し、表面状態がばらつく要因、および二次生成物質の付着過程(変質過程)との関係性を明らかにすることを目的としている。本研究では、非吸湿性粒子の臨界過飽和度が粒子の表面状態に対して敏感に異なることを利用し、雲凝結核(CCN)計数器と凝結核(CN)計数器を用いて、大気エアロゾル粒子の個数濃度を粒子の表面状態別に測定する方法を考案した。前年度に東京都新宿区にある東京理科大学において、都市大気観測を実施し、CCN/CN測定と透過型電子顕微鏡による観察のための試料を採取した。解析結果から、直径200nmの粒子中に、非吸湿性粒子の数割合、ラッシュアワー時の非吸湿性粒子の特徴が示された。さらに、透過型電子顕微鏡を用いた元素分析と水透析法により、スス粒子の付着物の元素組成と水への溶解性を調べた。CCN/CN測定による非吸湿性粒子の割合と、水透析法によって見積もられた水不溶性粒子の数割合が概ね一致したことから、両者の整合性を確認できた。元素分析から、一部のスス粒子に、水溶するナトリウム塩やカリウム塩が不均質かつ微量に付着していることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年12月から2020年1月に、東京理科大学と広島大学に装置を借用して、東京理科大学神楽坂キャンパスで都市大気観測を行い、当該年度は観測データの解析や試料分析を進めた。CCNとCNに関する測定結果から、直径200nm粒子中、非吸湿性粒子の数割合は1%程度であること、ラッシュアワー時は疎水性粒子に比べて、微量な水溶性物質を含有する非吸湿性物質主体の粒子が増加する傾向が示された。CCN計による非吸湿性粒子の数割合は、透過型電子顕微鏡と水透析法で観察・計数した水不溶性粒子の数割合と概ね一致した。透過型電子顕微鏡による組成分析では、一部のスス粒子には、Na、KやFeの化合物が微量かつ不均質に付着していることが示された。水透析法から、Na、Kの一部は水溶することが分かった。Na、Kは、ガソリンに含まれる成分である。CCN計の結果と総合すると、一部のススには排出時当初から微量な水溶性物質を付着していることが示唆された。研究成果については、大気エアロゾル学会や国内学会で既に発表し、現在、国際的学術誌に投稿するための論文の執筆を進めている。以上のように、本研究で提案した測定法による粒子表面状態の評価方法と個別粒子観察との整合性がとれ、さらに都市大気におけるスス粒子の表面状態について平均的な情報と、それを説明するためのデータが取得できたため、研究は概ね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
透過型電子顕微鏡による個別粒子の追加分析を実施し、これに関するデータ解析を進めている。検出されたNaやKがどのような化合物として付着していたかを推定するため、元素分析の結果のより定量的なデータ解析を試みている。この追加分析と解析を除き、観測のデータの整理は既に概ね順調に進んでおり、既に国際的学術誌に向けた原稿を作成している。今後はこの投稿作業が中心となる予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響により、打ち合わせや学会、観測のために出張することが出来なかったため、未使用額が多く生じた。観測については初年度に良好なデータを得られたため、当該年度はデータ解析を中心として行った。今後は助成金を透過型電子顕微鏡の追加実験にかかる費用、論文の投稿にかかる費用(英文校正料、投稿料)、また学会参加費として使用する予定である。
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