2020 Fiscal Year Research-status Report
北極域の氷河暗色化と融解促進理解の新たなアプローチ.鉱物・微生物プロセスの研究
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19K20443
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Research Institution | National Institute of Polar Research |
Principal Investigator |
永塚 尚子 国立極地研究所, 研究教育系, 特任研究員 (30733208)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アイスコア中の鉱物起源 / グリーンランド / 走査型電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
アイスコア(円柱状にくり抜いた氷の筒)中の鉱物ダストは,過去の気候・環境変動を復元する重要な指標として利用されており,その起源や輸送経路の時間変化を明らかにすることは重要である.しかし,ダスト濃度が低い間氷期の氷は分析が困難なため,ほとんど研究が行われていなかった. 本研究では,走査型電子顕微鏡を用いて,とくに北極域で温暖化が顕著であった1915年から2013年までの過去100年間におけるグリーンランド北西部SIGMA-Dアイスコア中の鉱物ダスト起源の変化とその要因について明らかにし,Climate of the Past誌に投稿した.分析の結果,SIGMA-Dアイスコア中の鉱物ダストの起源は数十年周期で変化しており,それはグリーンランドの気温変化の影響を受けていることが明らかになった.さらに,鉱物ダストは主に2つの異なる地質起源から供給されており,寒冷な時期(1950-2000)にはカナダ北部から,温暖な時期(1915-1949, 2005-2013)にはそれに加えて,氷河氷床の後退や積雪被覆域の減少によって拡大したグリーンランド沿岸部の地表面から多くの鉱物が供給されていた可能性が示唆された.一方,先行研究において主要起源とされてきたアジアやアフリカなどの乾燥域からの供給はほとんどなかった. 本研究の成果は,近年のグリーンランドアイスコア中の鉱物組成の変化を高い時間分解能で明らかにした初めての結果であり,走査型電子顕微鏡が低ダスト濃度期のアイスコアダストの起源推定に有効な手法であることを示した(2021年4月14日受理).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年6月から2021年3月末にかけて産休・育休を取得し,研究を中断したため,当初予定していた野外調査に行くことができず,クリオコナイト(氷河上の暗色不純物)分析に関しても新しい結果を得ることができなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はまずグリーンランド北東部EGRIPサイトで掘削されたアイスコアに含まれる鉱物ダストの走査型電子顕微鏡観察を行う.得られた結果をSIGMA-Dアイスコアで得られた結果と比較してグリーンランド氷床に飛来する鉱物の組成や起源の時空間分布を明らかにし,その微生物生産への影響を評価することで氷河暗色化拡大の将来予測を行う.当初の計画ではSIGMAより長い変動の記録を持ち,同じ北西部に位置するNEEMサイトで掘削されたアイスコアをコペンハーゲン大学から輸送して鉱物ダストの組成分析を行う予定であったが,COVID-19の影響により入手の目処がまだ立っていないことから,こちらの分析は次年度以降に行う. 次に,グリーランド北西部および南西部の氷河で2012年以降に採取されたクリオコナイト中の鉱物および表面融解水の物理化学分析を行うことで,氷河表面における鉱物由来の溶存化学成分の分布と動態について明らかにする(2021-2023).鉱物組成に関しては.X線回折解析装置(XRD)を用いた組成分析,走査型電子顕微鏡を用いた形態観察およびエネルギー分散型X線分析検出器と電子後方散乱回折検出器を用いた表面成分分析,結晶組織分析を合わせて行うことにより,その組成を同定する.融解水の分析に関しては,分光光度計を用いた溶存化学成分の測定を行う.測定は主に微生物の栄養塩源である鉱物由来の成分について行い,得られた結果を鉱物組成と比較して鉱物ダストから水に溶け出している栄養塩成分とその起源となる鉱物の種類についてより詳しく明らかにする.鉱物の起源推定に関しては京都にある総合地球環境学研究所にてSr-Nd同位体分析を行う予定であったが,本年度は子供がまだ小さく長期の出張が難しいため,可能であれば次年度以降に行う.また,野外調査についても上記の理由およびCOVID-19の影響を考慮して本年度は実施しない.
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Causes of Carryover |
6月からは産休・育休を取得したために,当初予定していたグリーンランドへの野外調査に行くことができず,またクリオコナイトの分析のための京都の研究所への出張も行わなかったことから次年度使用額が生じた. 今年度は走査型電子顕微鏡の電子銃の交換が必要となるため,交換作業にかかる費用として使用する予定である.
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[Journal Article] Studies on the variability of the Greenland Ice Sheet and climate2021
Author(s)
Kumiko Goto-Azuma, Tomoyuki Homma, Tomotaka Saruya, Fumio Nakazawa, Yuki Komuro, Naoko Nagatsuka, Motohiro Hirabayashi, Yutaka Kondo, Makoto Koike, Teruo Aoki, Ralf Greve, Jun'ichi Okuno
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Journal Title
Polar Science
Volume: 27
Pages: 100557
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Temporal and spatial variabilities in surface mass balance at the EGRIP site, Greenland from 2009 to 20172021
Author(s)
Yuki Komuro, Fumio Nakazawa, Motohiro Hirabayashi, Kumiko Goto-Azuma, Naoko Nagatsuka, Wataru Shigeyama, Sumito Matoba, Tomoyuki Homma, Jørgen Peder Steffensen, Dorthe Dahl-Jensen
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Journal Title
Polar Science
Volume: 27
Pages: 100568
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Variations in mineralogy of dust in an ice core obtained from northwestern Greenland over the past 100 years2021
Author(s)
Naoko Nagatsuka, Kumiko Goto-Azuma, Akane Tsushima, Koji Fujita, Sumito Matoba, Yukihiko Onuma, Remi Dallmayr, Moe Kadota, Motohiro Hirabayashi, Jun Ogata, Yoshimi Ogawa-Tsukagawa, Kyotaro Kitamura, Masahiro Minowa, Yuki Komuro, Hideaki Motoyama, Teruo Aoki
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Journal Title
Climate of the Past
Volume: -
Pages: -
Peer Reviewed