2022 Fiscal Year Research-status Report
北極域の氷河暗色化と融解促進理解の新たなアプローチ.鉱物・微生物プロセスの研究
Project/Area Number |
19K20443
|
Research Institution | National Institute of Polar Research |
Principal Investigator |
永塚 尚子 国立極地研究所, 先端研究推進系, 日本学術振興会特別研究員(PD) (30733208)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | アイスコア中の鉱物起源 / グリーンランド / 氷河暗色化 / 雪氷藻類 |
Outline of Annual Research Achievements |
グリーンランド氷床北東部のEGRIPアイスコア中の過去100年分の鉱物ダストの走査型電子顕微鏡観察を行い,その形態と組成の時間変化について明らかにした.さらに,北西部のSIGMA-Dアイスコアの結果と比較することで,グリーンランド氷床に飛来する鉱物の組成や起源の時空間分布を高時間分解能ではじめて明らかにした. EGRIPダストはSIGMA-Dに比べて粒径が小さく、組成も大きく異なった。また,SIGMA-Dダストはグリーンランドの地表面気温の影響を受けて数十年スケールでの組成変動を示したのに対し,EGRIPダストはそのような大規模な変動は見られなかった.これらのことから,ダストの起源や供給プロセスが両地点で大きく異なることが示唆された.EGRIPでは,SIGMA-Dコアに多く含まれた北米起源,ローカル起源のダストが少なく,反対にアジアや北部ユーラシア起源と考えられるダストが多かった.内陸の高高度に位置するEGRIPには主に遠方由来のダストが飛来している可能性があり,この結果はトラジェクトリ解析からも支持された.上記の分析結果は近日中にClimate of the Past誌に投稿予定である. さらに,雪氷藻類の栄養塩源となる鉱物の種類を推定するため,走査型電子顕微鏡を用いてグリーンランド北西部と南西部の氷河上不純物(クリオコナイト)中の雪氷藻類に付着する鉱物の観察を行なった.これらの氷河では雪氷藻類の卓越種が異なることがわかっている.分析の結果,藻類に付着する鉱物の種類は両地域で大きく異なり,それは周辺の地質条件の影響を受けていることが示唆された.観察された鉱物には必須元素が比較的豊富に含まれていることから,このような鉱物組成の違いは雪氷藻類の栄養塩条件だけではなく,その群集構造や有機物生産にも大きく影響することが予想され,暗色化拡大メカニズム解明に向けた新たな知見を得た.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では,グリーランドの氷河上で採取されたクリオコナイト中の鉱物ダストと表面融解水の分析を進めている予定であったが,COVID-19の影響や育児のために長期の出張が難しく,千葉大学や総合地球環境学研究所(京都)にて予定していた鉱物のSr-Nd安定同位体分析を行うことができなかっ た.
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は,グリーンランド北西部および南西部の氷河で採取されたクリオコナイト中の鉱物および表面融解水の物理化学分析を行う.鉱物成分に関しては,走査型電子顕微鏡を用いた形態観察およびエネルギー分散型X線分析検出器と電子後方散乱回折検出器を用いた表面成分分析,結晶組織分析を合わせて行うことにより,その組成を同定する.さらに,京都にある総合地球環境学研究所にてSr-Nd同位体分析を行うことで起源を推定する.融解水の分析に関しては,分光光度計を用いた溶存化学成分の測定を行う.測定は主に微生物の栄養塩源である鉱物由来の成分について行い,得られた結果を鉱物組成と比較して鉱物ダストから溶出する栄養塩成分と,その起源となる鉱物の種類について明らかにする.Sr-Nd同位体分析を行うためには1週間以上の出張が必要となるが,子供がまだ小さいため,状況によっては外注による分析も検討する. 次に,今後,暗色域への露出が予想される鉱物ダストの分析を行うため,グリーンランド北西部のNEEMアイスコアの濃度の異なる複数の時代の氷サンプルに含まれる鉱物ダストについてクリオコナイトと同様の分析を行い,その起源と組成の変動について明らかにする.サンプルはコペンハーゲン大学に保存されているが,近年はCOVID-19の影響もあり,現地への出張や輸送が難しく,本年度まで申請が繰越となっていた.申請が許可されれば,極地研究所へ輸送して分析を行う.
|
Causes of Carryover |
走査型電子顕微鏡の電子銃の交換費用を計上していたが,所属研究機関の予算から交換費用が支払われたために,次年度使用額が生じた.さらに,COVID-19の影響で当初予定していたグリーンランドへの野外調査に行くことができず,またクリオコナイトの分析のための京都の研究所への出張も行わなかったことも影響した.
|
-
-
-
-
[Presentation] アイスコアを用いたグリーンランド氷床北部における過去100年間の鉱物組成変動の空間分布2022
Author(s)
永塚 尚子, 東 久美子, 對馬 あかね, 藤田 耕史, 的場 澄人, 大沼 友貴彦, 小室 悠紀, 平林 幹啓,尾形 純, 塚川 佳美, 北村 享太郎, 青木 輝夫, Trevor James Popp,Dorthe Dahl-Jensen
Organizer
日本雪氷学会 雪氷研究大会
-
[Presentation] Variations in mineralogy of dust in ice cores obtained from northwestern and northeastern Greenland over the past 100 years2022
Author(s)
Nagatsuka, N., Goto-Azuma, K., Tsushima, A., Fujita, K., Matoba, S., Onuma, Y., Komuro, Y., Hirabayashi, M., Ogata, J., Ogawa-Tsukagawa, Y., Kitamura, K., Aoki, T., Popp, T. J., Dahl-Jensen,D.
Organizer
The 13th Symposium on Polar Science
-
[Presentation] Variations in mineralogy of dust in ice cores obtained from Greenland over the past 100 years2022
Author(s)
Nagatsuka, N., Goto-Azuma, K., Tsushima, A., Fujita, K., Matoba, S., Onuma, Y., Komuro, Y., Hirabayashi, M., Ogata, J., Ogawa-Tsukagawa, Y., Kitamura, K., Aoki, T., Popp, T. J., Dahl-Jensen,D.
Organizer
Seventh International Symposium on Arctic Research