2021 Fiscal Year Research-status Report
乳腺オルガノイドでヒトと実験動物の放射線影響研究をつなぐ
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19K20455
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
工藤 健一 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (00805799)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | p63 / 放射線 / 放射線応答 / 放射線抵抗性 / 幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は免疫染色法によって作成した乳腺オルガノイドを用いた放射線応答の解析を行った。p63タンパク質は基底細胞マーカーであり、HMECでも常時発現し、前年度に報告したようにこのオルガノイドにおいてもp63発現・非発現細胞を確認している。研究代表者は前年度に出版した論文(Kudo et al. Radiat.Res. 2020)でラット乳腺基底細胞と乳腺内腔細胞の放射線感受性の差異について発表しているが、その原因をp53 inhibitorと言われるp63に求めた。このオルガノイドではin vivo乳腺と同様に、基底部位にp63発現細胞、内腔部位にp63非発現細胞が認められる。そこで、このオルガノイドに対してX線を4Gy照射し、24時間後にホルマリン固定し、パラフィン包埋処理を行って、代表的な放射線応答のマーカーであるp21の発現が基底部位と内腔部位で異なっているかどうかを確認した。従来の研究ではp21のRNA発現(CDKN1A)はp63によって抑制されるとする報告があったが、本研究の結果ではp63発現・非発現の両細胞にp21の強い発現が認められた。このことを確認するため、放射線誘発アポトーシスに感受性であるヒト人工多能性幹細胞にp63を導入し、上記と同様の放射線照射実験を行った。その結果、p21が関与する細胞周期停止についてはp63発現・非発現の両細胞でほとんど変化がなかったが、アポトーシス細胞についてはp63発現細胞で有意に減少することがわかった。このことから、p63は細胞周期停止にはほぼ関わらないが、ヒト乳腺の幹細胞を含む基底部位にて放射線によって損傷を受け、p53によってアポトーシスしなければならない細胞を生存させて遺伝子突然変異および染色体異常を引き起こし、その後に異常な分化細胞や癌細胞を発生させる原因になり得ると考えられた。この研究成果は今年度投稿を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究計画はラットやヒトの乳腺細胞からオルガノイドを作成し、これを放射線照射実験に用いることを目的としているが、実験結果からp63に関する従来の研究とは相反する結果が得られ、それを機会に細胞によってp63のp53抑制作用が細胞周期停止ではなくアポトーシスにあるということが示された。このことは上皮幹細胞におけるゲノム不安定性の可能性を示唆しており、被ばく時年齢依存性や癌の発生に長期間を要する事実を説明するものと思われる。上皮幹細胞におけるp63の放射線応答抑制は、放射線によらない通常の乳がんの発生機構を解明する上でも重要であると考えられる。このような新規性のある発見をオルガノイドの研究からしたので(1)当初の計画以上に進展しているを選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒトにおける放射線応答解析を進めるにはヒト乳腺オルガノイドの安定した作成が不可欠である。しかしながらヒト乳腺上皮細胞はコロナ禍において国内外から入手が困難となっており、新しい供給源が必要である。また、継代を進めるほどオルガノイドの発生率は下がり、その構造もin vivoと異なるようになってくることが他研究によって明らかにされていることから、継代を経ない初代細胞の入手が理想的である。このことから、研究代表者はアメリカの医療系研究機関に赴任し、外科的手術によって患者から摘出された正常乳腺を入手し、そこから乳腺基底細胞を入手してオルガノイドの安定的な発生を試みる予定である(2022年度中にCity of Hope Beckman Research Instituteに移籍予定)。また、乳腺幹細胞のマーカーはまだ見つかっておらず、多くの細胞と分けて分析することができないため、NGSによるシングルセル解析が不可欠と考えている。これによって乳腺幹細胞を分類し、p63発現と放射線誘発アポトーシスの抑制が実際に起こっていることをex vivoベースで確認することが必要である。 一方、本研究は乳腺オルガノイドを長期間培養することができなかった。このことがオルガノイドの成熟を妨げ、in vivo乳腺と同様の二層構造に至らなかった本質的な理由と思われる。長期培養を妨げたのは、乳腺基底細胞による収縮性である。ラットおよびヒトのどちらの乳腺基底細胞でもオルガノイドが成長するほど周囲のコラーゲンゲルを巻き込んでしまい、ゲル全体が収縮し、顕微鏡による観察やパラフィン包埋切片の作成に支障を生じた。そのため、コラーゲンゲルによる3次元培養法以外の手法を開発することが必要と考えられる。これについては脳や腎杯など、他臓器の成功モデルを参考にし、その手法を学びながら新しい手法の開発を試みることを検討している。
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Causes of Carryover |
6月開催の学会で成果を発表するため、25000円程度の金額を次年度分として残した。使用計画として学会参加費・ホテル代等の滞在費に充てる予定である。
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