2019 Fiscal Year Research-status Report
全ゲノム解析による河川水中の薬剤耐性腸内細菌科細菌の実態解明
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19K20461
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
五味 良太 京都大学, 工学研究科, 助教 (30794284)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 薬剤耐性菌 / 腸内細菌科細菌 / ゲノム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、抗生物質が効かない細菌 (薬剤耐性菌)が世界規模で増加している。これらの細菌により引き起こされた感染症は、治療の選択肢が限られることから、世界共通の脅威として認識されている。河川水といった環境水は、薬剤耐性菌や薬剤耐性遺伝子の拡散に寄与していると言われているが、その詳細はわかっていない。本研究では、環境水中の薬剤耐性腸内細菌科細菌を単離してゲノム配列の決定・解析を行い、「1. 河川水が保菌や感染の原因となる薬剤耐性菌の拡散に寄与しうる、という仮説の真偽」「2. 単離された細菌がどのような薬剤耐性遺伝子を保有しているのか、また検出された薬剤耐性遺伝子が他の細菌に伝達しやすい状態にあるのか」の2点を明らかにすることを目的とした。 2019年度は、薬剤耐性腸内細菌科細菌を単離するため、淀川水系に属する湖・河川から計33の環境水サンプルを採取した。カルバペネム(薬剤の一種)耐性腸内細菌科細菌(以下CRE)単離用の培地を用い、これらのサンプル中のCRE濃度を測定し、さらに計20株ほどのCREを単離した。現在、これらの単離したCRE菌株の塩基配列の決定・解析を行なっているところである。 また、上記菌株解析の下準備として、2019年以前に下水から単離した薬剤耐性腸内細菌科細菌 (コリスチン耐性遺伝子mcr-3.1保有大腸菌株)の塩基配列を決定して各種解析を行い、保有薬剤耐性遺伝子やその周辺構造を同定した。その結果、臨床分離株ではない環境株でも、非常に多様な薬剤耐性遺伝子や周辺構造を1つのプラスミド上に保有することを突き止めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で述べたとおり、33サンプルと多数の環境水サンプルを採取したものの、CREの検出率が低く、CREが得られないサンプルが多かった。そのため、サンプリング回数を増やして菌株数を確保するのに時間がかかった。また、コロナウイルス関連で単離した菌株の塩基配列決定が計画通り進まなかった。 ただし、本研究の後半部分であるゲノム解析については、その下準備としてコリスチン耐性遺伝子mcr-3.1保有大腸菌株のゲノム解析を行い、薬剤耐性遺伝子周辺構造の決定を完了するなど、一定の成果をあげることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、2019年度に単離した菌株について、Illumina社のシーケンサーを用いて塩基配列の決定を行う。また、Illumina社シーケンサーのデータだけでは薬剤耐性遺伝子周辺構造が決定できない菌株については、ONT社のシーケンサーも併用し、菌株の完全長の塩基配列を決定する。その後、各種バイオインフォマティクスソフトウェアを用いて、系統解析・薬剤耐性遺伝子の検出・病原性遺伝子の検出といった塩基配列解析を行う。以下、解析の詳細を述べる。 まず、上記で得られた環境水由来の薬剤耐性菌のゲノム配列を、保菌株と臨床分離株のゲノム配列と比較する。比較対象となる保菌株や臨床分離株のゲノム配列は、公共データベースであるGenbank上のデータを活用することで入手する。まず、VFDB (http://www.mgc.ac.cn/VFs/)を用いて病原遺伝子の検出を行い、環境株と保菌株/臨床株との間の病原遺伝子の保有パターンの類似性を決定する。そして、系統解析ソフトウェア (kSNPなど)を用いて全ゲノム一塩基多型に基づく系統樹を作成し、環境株と保菌株/臨床株との間の系統学的な近縁性を決定する。さらに、ゲノム配列をResFinder (https://cge.cbs.dtu.dk/services/ResFinder/)やPlasmidFinder (https://cge.cbs.dtu.dk/services/PlasmidFinder/)等のデータベースと照合し、薬剤耐性遺伝子やプラスミドの検出を行う。また、一つ一つの薬剤耐性遺伝子の周辺の塩基配列について、GenBank等塩基配列データベースを対象としたBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)解析を行い、薬剤耐性遺伝子の周辺構造についての知見を得る。なお、本研究て決定したゲノム配列は公共データベースであるDNA Data Bank of Japanに登録し、世界中の研究者が恒久的に利用できるようにする予定である。
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Causes of Carryover |
本年度に行う予定だったIllumina社のシーケンサーを用いた塩基配列の決定が次年度に持ち越しになったため、シーケンサー関連試薬(DNA抽出試薬、シーケンスライブラリー調整試薬など)の購入費が次年度使用額に計上されたため。 2020年度は、Illumina社のシーケンサーを用いた塩基配列決定に加え、当初の計画通りONT社のシーケンサーを用いた塩基配列決定も行う。
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Research Products
(2 results)