2019 Fiscal Year Research-status Report
土壌を起源とする森林火災煙中の多環芳香族炭化水素類とその生態リスクの解明
Project/Area Number |
19K20464
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
佐澤 和人 富山大学, 学術研究部理学系, 助教 (80727016)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 泥炭火災 / 煙霧 / 多環芳香族炭化水素 / 土壌有機成分 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,「土壌を起源とする煙霧の発生条件」「煙霧と土壌残渣に存在するPAHsとPAHs誘導体の種類と濃度」「PAHsとPAHs誘導体の起源となる土壌有機成分」「煙霧と加熱残渣の遺伝毒性」を明らかにする.本年度はインドネシアに渡航し,未火災地において熱帯泥炭を採取し,泥炭・煙霧中に含まれるPAHsの分析方法について検討を行った.また,実験室内において未火災地の泥炭試料を異なる温度条件下で加熱し,発生する煙霧粒子の量や加熱残渣中のPAHsについて分析を行った. 環境省によって定められた既存の分析手法を用いたところ,泥炭中PAHsの分析が困難であることが分かった.そこで,熱帯泥炭中のPAHs分析に適した手法を未火災地泥炭に添加した重水素化PAHs(PAHs-d)の回収実験から検討した.泥炭中に多く存在する高極性の有機成分による影響を除くため,アルカリ分解処理後,ジクロロメタンを抽出溶媒として用いた.その結果,PAHs-dの回収率は70%以上を示し,泥炭に含まれるPAHsの分析を可能とした.未火災地の泥炭試料を管状炉内で標準空気(窒素80%,酸素20%)を流しながら異なる温度で加熱し,フィルターに煙霧粒子を捕集した.煙霧粒子の重量から,300℃から400℃にかけて煙霧粒子が増大し,500℃以上で頭打ちになることが明らかとなった.一方,250℃で加熱した土壌からは煙霧がほとんど捕集されなかったことから,300℃以上の加熱により泥炭から煙霧が発生することが分かった.マッフル炉を用いて異なる温度(300℃,400℃)で加熱した泥炭試料のPAHsを分析した.その結果,300℃および400℃で加熱した泥炭において主に生成したPAHsは3環の化合物であった。加えて,3環に比べ毒性が比較的高いことが知られている4,5環のPAHsの割合は400℃で加熱した試料の方が高いことが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度計画していた,加熱残渣中のPAHsの分析,煙霧発生の温度条件については明らかにするとが出来た.しかしながら,煙霧粒子中のPAHsについて分析を行う予定であったが,泥炭試料に適したPAHsの分析手法の検討に時間を要したため完了していない.また,加熱残渣および煙霧粒子中に含まれるPAHs誘導体に関しても分析を行う必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
加熱によって泥炭から生成した煙霧粒子からPAHs,PAHs誘導体を有機溶媒によって抽出・分析を行う.また,泥炭火災は表層から下層に向けて燃焼し拡大していく特徴を持っている.従って,標準空気ではなく窒素ガスを流すことで,泥炭火災時に下層で生じている嫌気的雰囲気下での燃焼を再現しその際に生成するPAHs類の分析を行う. PAHsとPAHs誘導体の起源となる土壌有機成分を探索するため,泥炭試料から抽出した腐植物質,市販のセルロース,リグニンを加熱し発生する煙霧粒子および加熱残渣中のPAHsを分析する.腐植物質に関しては水酸化ナトリウムによる抽出後に行う精製処理により実験に供する十分な量が確保できない可能性がある.その場合は水酸化ナトリウムによる粗抽出物,または市販の腐植物質を使用することを予定している. 煙霧粒子と加熱残渣の毒性を我々が開発した電気化学的遺伝毒性試験法およびPC12細胞(ラット副腎髄質褐色細胞腫)を用いた試験から評価する.その結果から煙霧や火災跡地土壌が生体に及ぼす影響とそれに寄与するPAHとPAHs誘導体を特定する.
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