2019 Fiscal Year Research-status Report
固体王水を利用した革新的な白金族金属のリサイクルプロセスの構築
Project/Area Number |
19K20483
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
吉村 彰大 千葉大学, 大学院工学研究院, 助教 (60800935)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 白金族金属 / リサイクル / 使用済み触媒 / 固体王水 / 溶融塩 / 固液分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
白金(Pt)に代表される白金族金属(PGMs)は、高い化学耐性や触媒能から、特に自動車用触媒用向けの利用が多く、自動車1台あたり数gのPGMsが利用される。一方、一般的な鉱石の品位は数ppm程度のため、使用済み触媒からのリサイクルが重要とされ、実際に広く操業されている。既存のプロセスでは、王水や塩素(Cl2)を吹き込んだ塩酸(HCl)で溶出させる湿式法や、溶融した鉄(Fe)や銅(Cu)に吸収させて濃縮する乾式法が主に利用されているが、いずれも廃液や高温での処理による環境負荷の大きさや、施設の立地に制限があることが問題とされる。最近では溶融塩を用いた手法も提案され、直接塩化できる「固体王水」という概念も提唱されているが、溶融塩自体の危険性や塩素の吹込みを必要とするため、操業上の問題は残る。以上を踏まえ、本研究では安全かつ環境負荷の小さい新たな「固体王水」として、塩化鉄(III)(FeCl3)と塩化カリウム(KCl)、または塩化ナトリウム(NaCl)を用いたPGMsの回収プロセスを構築することを目的に研究を行った。 本研究では、自動車用触媒に主に用いられるPt, Pdおよびロジウム(Rh)を対象に固体王水により直接塩化・溶解させ、またPtとPdについてはリーチング、および固液分離を通じて不純物を除去しつつ単体として回収することで、将来的なリサイクルプロセスの構築も考慮した検討を行った。その結果、Pt, Pd, Rhのいずれも固体王水による直接塩化・溶解が可能であること、Pt, Pdについては溶解後の適切な処理によって単体として再度回収可能であることが確認され、PGMsのリサイクルに関する基礎的な確認がなされた。従来の湿式法と比較すると強力な酸を用いることがなく、乾式法と比較すると比較的低温で処理できることから、環境負荷の小さいリサイクルプロセスを構築できる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要の通り、本研究ではPGMsの内Pt, PdおよびRhを対象に溶解処理を行い、まだPtとPdについては回収処理も行った。固体王水には、FeCl3をベースにKClまたはNaClを添加した複合溶融塩を利用することで、融点降下による低温での処理、およびFeCl3の揮発抑制を図った。PtはFeCl3-KCl系固体王水およびFeCl3-NaCl系固体王水で最大6時間、PdおよびRhにはFeCl3-KCl系固体王水を最大3時間処理した。処理温度はPt, Rhで590-650 K、Pdで560-600 Kとした。この固体王水でPtを処理したところ、水に不溶な塩化白金酸カリウム(K2PtCl6)または易溶な塩化白金酸ナトリウム(Na2PtCl6)を、Pdは水に易溶塩化白金酸パラジウム(K2PtCl4)を形成して溶解した。処理後、室温で冷却して凝固した固体王水はリーチング処理した。リーチングには、Ptに対してはKCl水溶液とNaCl水溶液を、Pdに対しては純水を利用した。リーチング後、Ptに対しては塩化アンモニウム(NH4Cl)を、Pdに対してはNH4Cl, HClおよび硝酸(HNO3)を添加し、析出処理を行った。 その結果、Pt, Pdともに溶解すること、溶解後に固液分離を通じて単体として回収できることが確認された。この確認により、溶解から回収に至る一連のプロセスの構築が可能であることが示唆された。なお回収については、Ptでは条件の最適化によって80%程度の回収が確認された一方、Pdでは最大で40%程度の回収率であるため、こちらは改善の必要性がある。Rhについては、固体王水による溶解が確認された。ただし、溶解速度はPtやPdを下回り、また回収については確認されていない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果を通じて、Pt, Pdについては、溶解から回収に至る一連のプロセスの構築が確認されたことから、使用済み触媒からのPGMsリサイクルに固体王水を適用できる可能性が示唆された。ただし、Pdについては溶解後の回収率が低かったことから、今後はプロセスの最適化による改善を進める他、Ptについても回収率の向上を進める。また、Rhでは溶解自体は確認されたものの、溶解速度が低かったこと、また回収が確認されていないことから、今後プロセスの改善を進め、高効率な回収が可能となって後、実際の使用済み触媒からの回収を行う。 またPtとPdについては、単体以外に合金処理、あるいは共存した場合の処理も検討する。FeCl3-KCl系固体王水でPtとPdを処理した場合、得られる化合物の水溶性が大幅に異なり、Pt化合物は不溶、Pd化合物は易溶とされる。そのため、PtとPdを同時に処理、あるいは合金を処理した場合でも、リーチングによってPt化合物とPd化合物を分離でき、適切な析出処理によりそれぞれの単体を回収できる可能性が示唆されている。使用済み触媒には複数のPGMsが共存することが多いこと、またPGMs合金を触媒用の材料として利用するという事例も提案されていることから、固体王水による溶解、および適切な溶媒によるリーチングを利用することで、従来と比較して単純なプロセスで分離・回収が可能であることが示唆された。加えて、リサイクルのみならず精錬などへの適用も可能と考えられることから、新たな応用の可能性も検討する。
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Research Products
(6 results)