2020 Fiscal Year Research-status Report
環境変動下の社会・生態レジリエンス:モンゴル牧民の移動に着目して
Project/Area Number |
19K20487
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柿沼 薫 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 准教授 (20773401)
|
Project Period (FY) |
2020-03-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 極端な気象現象 / 影響評価 / 脆弱性 / 遊牧 / 社会ー生態システム / レジリエンス / モンゴル / 雪害 |
Outline of Annual Research Achievements |
将来の気候変動に伴い、干ばつや洪水といった極端な気象現象の増加が懸念されており、それらの社会への影響評価が早急の課題である。このとき、環境変動に対して生態系や社会がある状態の機能を持続し続ける力"レジリエンス"の重要性が認識されている。本研究では、2009年に大規模な雪害が生じたモンゴル放牧草原を対象に、極端な気象現象に対する生態系と社会の回復力(レジリエンス)を検証することを目的としている。当該年度は、とくにモンゴル・ドントゴビ県を対象に、牧民社会の雪害に対する脆弱性と回復力について検証した。モンゴルの牧畜社会では家畜が財であることから、極端な気象現象に対する社会の回復力は、家畜頭数を用いて評価した。具体的には、世帯別家畜頭数パネルデータを2003-2014年の期間を対象に整備および解析を実施した。その結果、2009年の雪害により貧困世帯ほど家畜頭数を多く失っており、かつ雪害後の家畜頭数が回復しない場合が多いことがわかった。つまり、雪害に対する脆弱性は世帯によって異なっており、所有する家畜頭数は脆弱性に関わる一つの指標であることが考えられた。さらに、雪害後の回復も世帯によって様々な応答を示しており、とくに家畜頭数を多く失った世帯はあまり失わなかった世帯より回復していないことが明らかになった。この結果から、雪害時の被害を抑えることがその後の家畜頭数回復へつながる可能性が示された。このように、雪害に対する牧民社会の脆弱性と回復力は様々であり、特に所有する家畜頭数が少ないと雪害に対する脆弱性の高さや回復力の低下へ関わる要因であることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
COVID-19の影響により、モンゴルへの入国が困難となり、現地調査が実施できておらず、その点やや研究に遅れが生じている。このため、当該年度は利用可能なデータセットの整備と解析を中心に研究を進めた。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの解析により、牧民世帯の雪害に対する脆弱性と回復力の多様なパターンが明らかになった。今後は世帯による脆弱性や回復力の違いが、どのような要因で決まるのか、メカニズムに焦点をあてて明らかにする。データセットには、対象期間中の家畜種の年齢別構成や雌雄の情報も含まれているため、家畜種別、年齢別の死亡率などを算出し、とくに雪害の影響を受けた家畜種や年齢を明らかにし、家畜頭数動態の視点から雪害の脆弱性と回復力のメカニズムを明らかにする予定である。これらの結果から、雪害への脆弱性が高い家畜種や年齢構成を明らかにし、雪害の影響を抑えるための家畜管理の提案を目指す。 COVID-19の影響により、現在モンゴルへの入国ができない状態であるため、前述のデータ解析を実施する予定であるが、現地調査が可能になった場合は遊牧民の移動を聞き取り調査によって明らかにし、移動パターンと雪害に対する脆弱性の関係を検証する。遊牧民の移動データは、まず家畜頭数データが整備されたドントゴビ県の100-200世帯を目 安に聞き取り調査を実施し、タブレット型コンピューターの地図アプリ上で数年分の移動経路を記入してもらう。雪害が生じるときは、冬の気温や積雪だけでなく、夏の干ばつと関連して起こることが指摘されているため、雪害と干ばつの両方の移動について聞き取り対象とする。地域別の移動データを電子上でまとめ、調査地遊牧民の移動データベースを作成する。聞き取り調査の対象となる住民に対して事前に研究の目的 と情報の用途について説明を行い、同意を得られた場合にのみ、調査を実施する。聞き取り調査のデータは、個人を特定できないよう番号にて表示管理し、個人情報の取扱に細心の注意を払う。
|
Causes of Carryover |
COVID-19の影響により、対象地であるモンゴルへの入国が不可能になったため、現地調査に伴う旅費、謝金及び物品費の利用を見送った。
|