2019 Fiscal Year Research-status Report
持続可能な地域づくりに資する“思考の補助線”としての風土概念の有効性の検討
Project/Area Number |
19K20513
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Research Institution | Research Institute for Humanity and Nature |
Principal Investigator |
太田 和彦 総合地球環境学研究所, 研究部, 助教 (50782299)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 風土論 / 地域計画 / 生活圏 / 和辻哲郎 / 持続可能な社会への移行/転換 / レジリエンス / 環境倫理学 / 食農倫理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主な研究実績は以下のとおり: ・比較思想学会2019年度大会(6月15日,16日 石川県西田幾多郎記念哲学館)にて、「予測と対処とは別の仕方で未来を想像することの正当性―和辻哲郎とアンリ・ベルクソン―」を報告し、和辻風土論の思想史的位置づけを分析し、地域の持続可能性とレジリエンスの向上に関わる関連分野の研究者と実践者に資する形でその応用可能性に関する意見交換の機会を行った。 ・International Association for Japanese Philosophy 2019(10月12日,13日 ハワイ大学マノア校)にて、「Fudo theory, Environmental ethics, Food ethics」を報告し、環境倫理学、食農倫理学と風土論の接続についてま意見交換の機会を得た。また、Thomas Jackson氏(ハワイ大学)と和辻風土論における「旅行者の体験」とP4C(こどもの哲学)の関連性についての意見交換を行った。 ・Sevilla Anton氏(九州大学)、Laina Droz氏(京都大学)、王智弘氏(地球研)、宮田晃碩氏(東京大学)らとの合宿形式の意見交換会を開催し(10月19日,20日 地球研)、風土論と教育学、環境倫理学、フィールドワーク、文学研究、表現論との接続の可能性についての意見交換を行った。 意見交換と調査を通じて、地域の持続可能性とレジリエンスの向上に関わる関連分野のにおいて「風土」という言葉が用いられる場面では、特に風土性と歴史生の相違点、つまり歴史的事実の直接的な表出ではなく、体感されて顕れる、ある種の痕跡、来歴、出来事の射影であり、そうであるがゆえにある種のゆがみが、単独ではなく、複数につながるかたちで表現されるという点が着目される傾向が明らかとなった。上記の報告ないし意見交換は、2020年度以降に刊行される論文・報告書・書籍(論文集)に反映される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、複数の学会での学会報告と意見交換会を通じて、風土論に関心を持つ研究者・実践者らへの聞き取り調査を実施することができた。この聞き取り調査により、以下の点を確認した。 (1)風土論が、超学際研究や持続可能な社会への移行/転換といった取り組みに対して、どのような「レンズ」や「プリズム」を提供可能であるかを検討することにより――ある観点に立って何かを新しく見出すとき、何かに注意を向ければ、同時に別の何かに注意を向けられないという事態が必然的に生じるが、それが風土論においてはどのような性質のものであるかを明確化することにより――当該分野への理論的貢献を果たしうる。 (2)現場で行われている細かい議論をはり合わせていく方法が求められているのであり、流し込むべき鋳型――正しい解決策がある。それは正しい知識を提供する。だから知識を与えれば、みんなしかるべき形になる・行動するという前提に基づいたプログラム――が求められているわけではない。 (3)風土として貼りあわされた、ビジョン、アイデンティティは、全体的な計画・理論(完結した全体の記述としての理論)を決めるためのものではなく、計画・理論に巻き込まれる参与者を”結果として”間接的な共作者にするためのフィードバックとしてある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、社会、技術、生態系の相互作用のなかで生じる多様な厄介な問題(wicked problem)――持続可能な開発に関わる問題、「地球環境問題」――に取り組むうえで、(1)風土のなかでなされるstickyな知識と情報の取捨選択によってなされる意思決定と、(2)風土のそとでなされるubiquitousな知識と情報の取捨選択によってなされる意思決定の接点を作り上げるためのトレーニングとなる手法を模索することも射程に入れた考察を行う予定である。また、新型コロナウィルスの感染拡大により、予定していた複数の学会報告が中止または次年度に延期となった。このため、2020年度は研究成果をまとめと単著の刊行準備に集中する。 単著では、特に下記の点を検討する予定である:(1)先行研究での風土概念の整理。今日、風土概念はある種の規範として使用される傾向があるが、それに尽きるといえるか。(2)風土概念のありうる使用方法の、外的条件、機能、構造の3つの側面からの検討。(3)風土概念を拡充させる具体的な試み・方針。(4)拡充した風土概念の使用の試み。
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Causes of Carryover |
書籍購入費の残額であり、翌年度分の書籍購入費に充当する。
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Research Products
(16 results)