2021 Fiscal Year Research-status Report
Empirical Political Science Research on the Issue of Compatibility and Contradiction between Science and Indigenous Knowledge in the Arctic Island of Greenland
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19K20514
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Research Institution | Hokkai-Gakuen University |
Principal Investigator |
高橋 美野梨 北海学園大学, 法学部, 准教授 (90722900)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 互酬(共生) / 功利主義 / 混淆 / グリーンランド・イヌイット |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度からの継続課題として、グリーンランド・イヌイット(課題内では「エスキモー」と併用している)社会における互酬(共生)的な自然への処し方と、功利主義的なそれとの混淆(や折衷)の局面を丹念に跡付けていくことがあった。今年度は、この「混淆」なるものの生成過程の解法を探求する上で、チュコトカ半島からグリーンランドへと至るイヌイットに焦点を当てた研究を整理し、本課題の位置を明確にした。 植民地化―キリスト教化との相乗―以降、イヌイット(社会)は、近代(国家)が失った人間のあるべき姿、いわば原初性のようなものを投影した空間として機能した。イヌイットは、厳しい自然環境に適応しながら生存する存在として高く評価された。それは、実態とは一致しない、近代(国家)を再定位するための想像の空間だった。その上で、イヌイット(社会)が近代(国家)へと変質していく程度が議論された。 このような非対称な関係を見直す過程で創出されたのが、「ネイティブ」という視角だった。しかし、この視角は「内部性」を特権化する、つまりネイティブの語りを無毒化して聖域化することにつながった。イヌイット(社会)から近代(国家)を単方向的に評定することになり、従来の二項の図式を再生産するジレンマを抱えることになった。 こうした二分法からでは十分に咀嚼できないネイティブ―非ネイティブのあわいを、特に1980年代以降の先住民の現前と歴史の多元化という視角から捉え直そうという機運が高まった。その際に、節合(articulation)と生成(becoming)を経た混淆(hybrid)という視角の持つ意味が検討された。 本課題は、節合・生成(など)から混淆へと至る議論の解像度を高めていくことに貢献するものであることを確認した。なお、予定していた現地調査は、新型コロナウイルスによる影響が長引く中で、取りやめざるを得なかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クジラやアザラシといった具体的な生物資源を事例に、グリーンランド・イヌイット社会における科学知と在来知の調和と背反の局面を理解していくところから始まった本課題は、人間と自然の交流の結い目に着目することで立ち現れる「混淆」を捉えていこうとする問題意識に落とし込む(あるいは昇華させる)ことになった。これには大きく二つの理由があった。一つは、新型コロナウイルスによる影響が長引く中で、予定していた現地調査を取りやめざるを得なくなったため、研究の実現可能性の観点から多少の軌道修正を行ったため。もう一つは、課題を展開する中で、グリーンランド・イヌイット(社会)における科学知や在来知の現在地を非歴史化せず、時間と空間の両面から跡付ける際に、両者の混淆をこそ主題とする必要があったため、である。 今年度はこのことに対する理解の深度を深めることができたと同時に、研究史を整理することで、議論の土台を整序できた(論文として脱稿し、国際ジャーナルに掲載された。その加筆修正版は書籍の導入部として利活用される)。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2022年度は、研究成果を広く社会に還元することをも含め、一般書として書籍を出版することが決定しており、出版スケジュールに沿って研究をまとめていくことを最大の目的とする。その際に、書籍は、本課題で提示する分析視角に基づき、複数の人文社会科学系の研究者(デンマーク人研究者含む)の知見を借りながら、学際的な共同研究の成果としてまとめる。また、書籍を元にした成果公開として、日本・デンマーク両国での公開シンポジウム、市民向けセミナーの開催を計画する。加えて、代表者は、本課題と紐づける形で国際共同研究加速基金(国際共同研究強化A)に採択されており、当該書籍を携えつつ、現地の研究者との更なる協働を計画する。
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Causes of Carryover |
これまでと同様に、新型コロナウイルスによる影響の長期化等により、予定されていた現地調査を行えなかったため、次年度使用額が生じた。最終年度にあたる2022年度は、感染症リスクをふまえつつ、書籍出版に向けたフォローアップも兼ねた調査を可能な範囲で行いたい。
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