2019 Fiscal Year Research-status Report
西アフリカにおけるイスラーム系移民の危機回避に関する人類学的研究
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19K20517
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
桐越 仁美 東京外国語大学, 現代アフリカ地域研究センター, 研究員 (70793157)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 西アフリカ / イスラーム / 移民コミュニティ / 商人 / マイギダ / 信用 |
Outline of Annual Research Achievements |
2010年以降、西アフリカではイスラーム武装勢力によるテロや誘拐事件の発生件数が増加している。イスラーム武装勢力の活動について、攻撃に関する情報入手はイスラームのネットワークを通じておこなわれていることが確認されており、過激主義の浸透は脆弱な農業や高失業率、経済格差の拡大などの地域住民の生活状況と深くかかわっていることが指摘されている。ゆえに西アフリカのイスラーム系住民を取りまく環境を詳細に分析し、過激主義の浸透を退けている事例について、その社会構造から検討する重要性は高い。本研究の目的は、西アフリカの周辺国から多数の移民を受け入れつつも、武装勢力の影響を受けていないガーナのイスラーム系移民コミュニティを対象とし、日常的な危機回避の実践を明らかにすることである。 2019年度は、ガーナにおける移民コミュニティの構造分析を実施した。ガーナの都市クマシに形成された移民コミュニティにおいては、「マイギダ」と呼ばれる人びとが移民と受入社会の仲介を担っていることが明らかとなった。マイギダは、商売経験が豊富な商人であり、国内外の商人と取引きがあり、複数人の若者を下働きとして雇っている。マイギダは、受入社会の人びととのあいだで交わされる取引を誠実にこなすことで信用を構築しており、その信用をベースに移民コミュニティと受入社会をつなぎとめている。また、マイギダは新しく移民コミュニティに加入した若者を下働きとして雇い教育を施すとともに、住居や食事の面倒をみることで彼らの生活を保障している。これらの実践により、マイギダは移民コミュニティにおけるトラブルの侵入や発生を未然に防いでいると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
産前産後休暇の取得と新型コロナウイルス(COVID-19)によるアフリカ諸国への入国制限により計画通りに現地調査を実施できていないが、SNSや文献を利用した調査により、当初予定していた移民コミュニティの内部構造の分析に着手することができている。また、国内学会における発表や英語論文の刊行を通じて十分な議論を交わし、順調に研究を進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
移民コミュニティの人びとの生活状況を把握するためには、ガバナンスの浸透状況を詳細に調査する必要がある。住民を対象とした調査から移民コミュニティの内部構造を分析した研究結果を踏まえ、2020年度には、行政レベルでの実践を調査・分析する予定である。当初の予定では、2020年度はおもにフィールドワークによる調査を実施する予定であったが、COVID-19の感染拡大状況を鑑み、2021年度に実施する予定であったガーナの移民/土地/農業/教育/医療政策およびその変遷、西アフリカの移民コミュニティの特徴などに関する文献調査を前倒ししておこなう。入国制限などの状況が緩和され、安全が確保できると判断される場合にはフィールドワークを実施し、各種政策が移民コミュニティの人びとの生活にどのように影響しているのかを調査したいと考えている。
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Causes of Carryover |
産前産後の休暇および育児休業の取得、新型コロナウイルス感染拡大による調査地域の入国制限により、予定していた現地調査が敢行できなかったために次年度使用額が生じた。次年度使用額は、2020年度の書籍購入、行政資料の入手等にあてるとともに、英語論文刊行の際の英文校閲、今後の現地調査のための設備購入費に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)