2019 Fiscal Year Research-status Report
フィリピン外交の大戦略―フィデル・ラモス政権の外交指導についての考察
Project/Area Number |
19K20518
|
Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
高木 佑輔 政策研究大学院大学, 政策研究科, 准教授 (80741462)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | フィリピン / フィデル・ラモス / 大戦略 / 小国 / 経済外交 / ASEAN / 国際法 / 地域協力 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、ラモス政権の外交に関する基本文献について、国内外で収集し、その批判的な検討を行った。特に、ラモス大統領自身の著作や、大統領の最側近と言われるアルモンテ国家安全保障担当補佐官の著作を集中的に収集した。また、ラモス政権後半に外務大臣を務めたシアゾン氏や、ラモス政権の外務省で一貫してASEAN外交を担当したセベリーノ氏の著作の収集も行った。また、大戦略論と小国外交についての関連文献を収集、批判的な検討を行い、本研究の理論的な貢献の可能性の整理に着手した。 2019年9月にはフィリピン共和国マニラ首都圏とダバオ市を訪問し、最高裁判所、外務省、ミンダナオ開発庁や調査報道機関等での聞き取り調査を行った。最高裁では、ラモス政権の法律顧問を務め、最高裁判事であるカルピオ氏から聞き取りを行った。フィリピン外務省やミンダナオ開発庁では、それぞれアジア外交や、地域間協力の担当者からの聞き取りを行い、特にこれまで研究蓄積の少なかったブルネイ・インドネシア・マレーシア・フィリピン東ASEAN成長地域(BIMP EAGA)についての情報収集を行うなど有意義であった。BIMP EAGAは、ラモス政権の地域主義外交の成果であり、今後さらに研究を進める余地があることが判明した。その他、国家安全保障会議の幹部職員からも聞き取りを行い、重要な知見を得た。 これらの成果をまとめ、日本国際政治学会の2019年度研究大会の部会「東アジア国際関係への新展開―中国の台頭へのアメリカ、日本、フィリピンの対応」において口頭報告「フィリピンの対中政策の転換――小国の大戦略試論」を行った。 学会報告後は、学会での質疑等を踏まえ、報告論文を英語に直し、内容を修正して国際的な学術雑誌への投稿を準備している。なお、研究のアウトリーチとして、『日経ビジネス電子版』に、フィリピンを含む東南アジア情勢についての小論を連載した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ラモス大統領、アルモンテ補佐官、シアゾン外務大臣やセベリーノ外務次官をはじめとする政権の実力者の著作をおおむね収集、読了し批判的な検討をした。また、大戦略論や小国外交に関する先行研究を読み進め、理論的な貢献についても具体的な検討を始めた。 現地調査では、国家安全保障会議や外務省などの主要官庁の関係者からの聞き取りを行った。特に、大統領法律顧問で会ったカルピオ氏(インタビュー当時最高裁判事)とのインタビューからは、ラモス政権の外交政策を考える上で多くヒントを得た。また、これまであまり重視されてこなかった地域協力の枠組みであるブルネイ・インドネシア・マレーシア・フィリピン東ASEAN成長地域(BIMP EAGA)を所管する省庁としてミンダナオ開発庁が設置されたことを確認したことなども、現地調査の成果である。 こうした文献調査と現地調査の成果を取りまとめ、国際政治学会の2019年研究大会の部会「東アジア国際関係の新展開―中国の台頭へのアメリカ、日本とフィリピンの対応」において報告を行った。この報告は、市民講座として一般公開されており、アウトリーチ活動としても位置付けられる。その他、アウトリーチ活動として『日経ビジネス電子版』に東南アジアの国際情勢について連載を行うなど、研究成果の一部を活用して対外発信も合わせて行った。 研究初年度の成果を踏まえ、学会報告のために準備した原稿を英語にし、英語論文として投稿準備を開始しており、研究はおおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き文献調査と現地調査を行う予定である。ただし、現地調査について、新型コロナウィルスの感染拡大状況を見極めてオンライン調査に切り替える等の方策を考えて進める。研究成果については、まとまり次第、国内外での学会報告や論文投稿を行う。 2020年7月には、オンライン上で国際研究集会を主催し、国内外の研究者と交流し、最新の研究動向の中での本研究の位置づけを確認する。 自身の調査に関しては、研究計画調書記載の研究計画通り、2020年度は経済外交の実態解明に注力する。特に、フィリピンの経済外交を支えたと考えられるアジア開発銀行等の公刊資料も積極的に収集し、分析を行う。現地調査が難しい場合でも、海外直接投資誘致や地域経済協力の効果について、経済学の理論的な知見を参照して検討を深める。また、2010年代以降の好調な経済実績を踏まえ、フィリピン経済の理解はこの数年で劇的に転換したが、本研究においては、近年のフィリピン経済好調の鍵となる改革を進めたラモス政権の経済外交に注目する。特に、フィリピン経済特区庁長官リリア・デリマ氏らの特区経営についての調査を進める。また、ラモス政権期に最大となった日本のODA支出についても、外務省資料等を参考にして調査を行う予定である。さらに、年度の後半以降は、海外で働くフィリピン人労働者に関する政府の政策について調査を行う。海外雇用庁HP等での情報収集を行うと共に、1995年にシンガポールで発生したフィリピン人労働者の刑死と、それに関するフィリピン・シンガポール間の外交に関する実態把握、この事件がその後のフィリピン外交に残した影響などについて考察する。
|
Causes of Carryover |
現地調査に関して、他の財源により航空券代を支出できたため、旅費が大幅に節約できた。学会発表について、一部旅費を他の財源により支出できたため、旅費が大幅に節約できた。新型コロナウィルスの感染拡大により、招聘予定の研究協力者の招聘が中止されたため、旅費が節約できた。 今年度は、国際研究集会を主催するため、昨年度分として請求した助成金を合わせて支出する予定である。
|
Research Products
(3 results)