2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K20539
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 明子 (村上明子) 北海道大学, 経済学研究院, 研究員 (50735826)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イラン / 女性 / エンパワメント |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はまず、イランの経済社会状況について公刊資料を元に分析を行った。また、これまでの現地調査の成果を参考にしながら、インタビュー調査の設計を進めた。 現地調査は2019年10月にイラン中部のイスファハーン州イスファハーン市と同州カーシャーン市で行った。調査対象は、1)手工芸分野で働く女性、2)観光業と関連産業で働く女性である。これまでの調査経験や先行研究の成果を踏まえて、主にモノローグ形式の非定型調査としたが、次に挙げる項目―個人属性(学歴・職歴を含む)、職業訓練の状況、現職の労働条件や労働観、収入の活用状況、今後の展望―これらについては、可能な限りこちらから質問をして情報を得るよう心がけた。 この調査を基に、今年度は特に対象1)について分析を進めた。その結果、イラン労働市場でこれまで女性労働が過少評価されてきた可能性が確認された。既存の議論では、イラン労働市場全般において女性たちは「周辺的な要素」と捉えられがちであった。しかし今回の調査を通して、公的・私的な技能訓練やサプライ・チェーンをベースにしつつ、関連・近接する分野を包摂する形で生産活動を変容(もしくは再編)させるような女性の主体的な姿勢が確認された。「手工芸分野は、同地の社会コンテクストに沿った形で、女性の稼得労働チャンネルとして柔軟に機能しうる」と言えそうだ。 他方で、「産業としての優位性」と「就業場としての魅力」は全く別のものであるという課題も確認された。例えば「女性の伝統的な典型職」としての手織り絨毯は肉体摩耗的な仕事であるにも関わらず現在の賃金は十分とはいえない。したがって、この業務が現状と同じ条件で継承されていくのか疑問が残る。 今後は更に対象を広げて事例分析を重ねることで、マクロ経済と地域経済の関連性やイラン女性の経済的エンパワメントの実態解明を進めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
最大の理由は国際情勢の悪化である。これにより、イラン側協力機関とのやり取りに支障が出ており、2019年7月にテヘランで行う予定であった国際ワークショップや地方在住の伝統工芸作家の活動視察が中止となった。 また上記の他に現地調査を2回(2019年10月と2020年2月)行う予定であった。第1回調査は予定通り2019年10月に実施できたが、2020年2月に予定していた第2回調査が、新型コロナ感染症の拡大によって見送りとなった。 新型コロナ感染症拡大は国際社会全体で深刻な状況であり、今後数年間の先行きが非常に不透明となっている。研究計画や現地との協力体制について全般的に見直し、この遅れを取り戻していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もイランの地方都市における女性のエンパワメントについて、質的調査を中心に検討を進めていきたい。具体的な調査地としては、イスファハーン州イスファハーン市と同州カーシャーン市、アルダビール州アルダビール市、ファールス州シーラーズ市を予定している。このうち、イスファハーン州については手工芸分野の女性就業者を中心に第1回目の調査を実施できた。今後は調査地を広げると同時に観光産業やその関連産業の動向にも着目したい。また、自治体関係者へのアプローチも進め、各地方特有の課題やその改善に向けた取り組みについても吟味したい。 他方で、国際情勢の緊迫化や新型コロナ感染症の拡大によって、現地では混乱が続いており、当面の間、外国人研究者が調査活動をすることは困難である。少なくとも次年度内はこのような状況が続くと思われるため、当該期間は公刊資料の整理やオンラインベースでの情報収集に特化した活動になるだろう。 幸い、これまでの調査対象者の多くとオンラインでやり取りができる状況である。オンラインベースで継続的に協力して頂けるような生活・就業実態調査について、検討を進めたい。また並行して、現地メディアや調査対象地域の域内統計など、アクセス可能な資料を吟味し、分析していく。 今後、現地調査が可能になったらスムーズに実施出来るように、現地との連絡を密にし、情報収集に全力で取り組んでいきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症拡大の影響で、2020年2月に予定していた第2回現地調査を見送ることとなった。そのため当該調査費用が未使用となり、次年度使用額が生じた。 世界的な感染症拡大という未曽有の事態であり、現地調査の先行きは不透明である。当面は公刊資料の入手・分析、現地関係者との情報交換を進め、今後調査が可能となった場合にスムーズに実施できるよう努めていく。 また、長期にわたって現地調査の見通しが立たない場合は、現地協力機関と連携してオンラインでのアンケート調査の実施も考えている。オンライン調査の場合は、現地のプラットフォーマーや関連サービスの提供者の協力を仰ぐ必要があるため、助成金はその対価支払いに充てられる可能性もある。本研究の目的を達成できるよう、可能な方策を模索していきたい。
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