2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K20539
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 明子 (村上明子) 北海道大学, 経済学研究院, 研究員 (50735826)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イラン / 女性 / エンパワメント |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナ感染症拡大によって現地調査の実施が難しくなったため、研究計画の見直しを行った。感染症拡大を受けてイランでも非接触型の経済活動や就業スタイルの導入が進められており、女性の仕事も大きく影響を受けている。そこで「ICTの活用」に着目してイランの女性起業家の活動実態やその支援策を掘り下げることとした。「ICTの活用」については、事業の中核として位置付けるケースもあればツールとして利用するケースもあるが、今年度は様々な事例を幅広く検討することとした。並行して、コロナ禍の地方における教育環境やICT関連の人的資源開発状況について、情報収集を進めた。 その結果、多様な分野の女性起業家がICTを事業活動に活用していること、ICTを活用した革新的なサービスが創出されていること、手工芸の海外市場開拓やサプライチェーンの再編などICTがイラン女性の伝統的な仕事にも新たな潮流をもたらしてきたこと…等、ICTの活用がコロナ禍以前から女性の経済活動に大きな可能性をもたらしてきたことが確認できた。その反面、コロナ禍以前からの課題として、ジェンダーバイアスによってICT分野での起業に女性特有の困難が生じていること、ICTの活用・人的資源開発についてテヘラン首都圏と地方の差異が顕著であること、ICT活用に関する行政の対応について女性起業家の不満が高いこと、起業家間の連携が不十分であること…等が確認された。コロナ禍の影響については、業種によって状況が大きく異なっていること、ビジネスモデルやマネジメント方法の転換が求められており新たな技能訓練の希求が高まっていること、行政側も各種ガイドラインを整備するなど環境変化への対応に力を入れていること…等、現地の最新動向を整理した。 以上について、国際共同ワークショップで報告し、議論の深化に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
国際情勢の悪化によって前年度の段階で調査やワークショップ開催に支障が生じていたが、新型コロナ感染症の拡大によって研究計画の更なる見直しを余儀なくされている。 感染症の拡大によって現地でも経済活動の見直し・再編が進んでおり、本研究テーマへの影響を注意深く検討する必要がある。しかも現地調査が当面は難しいため、その代替手段として現地関係者とのオンラインベースのやり取りを活用することとした。しかし現地関係者と情報交換するにあたって、先方の手続きに時間を要する等、現地特有の事情によってやり取りに時間を要することもあった。 このように、研究体制の再整備に多少の時間を要しているが、関係者との情報交換や議論は着実に進んでいる。これまでの現地調査内容を活かしつつ、現在進行中の社会変化について多角的な観点から検討しており、現在生じている研究の遅れは取り戻せるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
元々の研究計画では手工芸分野を中心に、地方都市での調査を予定していた(調査予定都市は①イスファハーン州イスファハーン市、②同州カーシャーン市、③ファールス州シーラーズ市、④アルダビール州アルダビール市で初年度は①・②で調査を実施)。しかし当面の間、外国人研究者が現地で調査活動をすることは困難な状況だ。したがって差し当たっては公刊資料の整理やオンラインベースでの情報収集に特化した活動になるだろう。こうした状況を踏まえて本研究は、「イラン女性の典型職の一つ」である手工芸分野中心のアプローチから「イラン女性の経済的エンパワメントの新たな潮流」へと分析視角をシフトさせ、特に「ICTの活用」に注目することとした。これまで調査した手工芸分野の事業活動においてもICTは広範に活用されており、しかも感染症拡大による社会変化の方向性を握るファクターとして検討する意義は高い。なお、特定の地方都市にフォーカスするのは一旦中断して、首都圏と地方都市の全般的な状況を整理していきたい。そのために、様々な地域で活動する女性起業家を中心に情報収集する予定だ。 幸い、ほとんどの現地関係者とはオンラインでやり取りができる状況であり、議論を進めている最中である。経済社会の環境変化とICTの活用状況、人材育成や支援体制・環境整備のあり方、首都圏と地方との差異など、包括的な観点から議論を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症拡大の影響で、今年度に予定していた現地調査や出張を見送ることとなった。そのため当該費用が未使用となり、次年度使用額が生じた。 世界的な感染症拡大という未曽有の事態であり、移動の制限は当面続くものと思われる。現状で入手可能な資料の分析や現地関係者との情報交換に努めると共に、調査が可能となった場合に備えて準備を進めておきたい。その際、現地とのやり取りや資料の整理・翻訳内容の確認など、ペルシャ語話者にサポートを仰ぐ可能性が高い。したがって調査資料の入手や整理にあたって、助成金を活用していく。 他方で、更に長期にわたって現地調査の見通しが立たなくなる可能性も高い。この場合は、現地調査の更なる代替手段を講じる必要がある。具体的にはオンラインでの量的調査を考えている。オンライン調査の場合は、現地のアプリや関連サービスの提供者の協力を仰ぐ必要があるため、助成金はその対価支払いに充てられる。 なお、オンラインでのやり取りを更に充実させるために、Web会議関連の機器を新たに購入する可能性もある。本研究の目的を達成できるよう、可能な方策を模索していきたい。
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