2019 Fiscal Year Research-status Report
アフリカにおける多民族社会成立の解明―地方行政における伝統的権威の裁量に着目して
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19K20552
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
原 将也 立正大学, 地球環境科学部, 助教 (00823147)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ザンビア / 伝統的権威 / 移住 / 混住 / 植民地統治 / 共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、植民地期以降現在までのザンビア北西部において伝統的権威に着目し、多民族社会が成立する要因を解明し、共生社会を実現する社会の統治構造を探ることを目的としている。 2019年8月にザンビア北西部で現地調査を実施した。調査地域はカオンデという民族のチーフが治める領域である。しかしルンダやルバレ、チョークウェ、ルチャジといった複数の民族が居住する。「伝統的権威の裁量と他民族の受け入れ」に関する聞き取り調査を実施した。最も古いカオンデ以外の他民族の村は、1940年代後半に、カオンデの伝統的権威による許しを受けて、調査地域に移入していたことがわかった。また「地方行政における伝統的権威の役割」について検討するため、伝統的権威による調停の実態を調査した。調停は住民間で生じたもめ事を解決する場である。調停はカオンデの伝統的権威によって執りしきられ、地域を治める伝統的権威の意向が反映されていることがわかった。また同月、イギリスのオックスフォード大学において、北ローデシアの植民地統治と伝統的権威の役割に関する行政文書を収集した。イギリスによる間接統治のもと、カオンデの伝統的権威は植民地政府によって、その数や治める地理的範囲について管理されていた。植民地統治の過程において、地域住民に対する伝統的権威の権力や地方行政における役割が強まったことが示唆される。 本研究と関連して、ザンビア北西部における移入史と土地利用の変遷をまとめた論考が、日本熱帯生態学会の学術誌TROPICSに掲載された。ザンビア北西部の多民族農村において、民族ごとに栽培する作物が異なっている現状を報告した。移入時期や民族ごとの栽培する作物の違いから、村人のあいだでは利用する生態環境にずれがあり、ひとつの地域において民族間で土地利用が競合していないことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、2019年8月に現地調査を実施し、伝統的権威が地域社会で果たす役割と地域の統治の変遷に関して、データを収集することができた。またこれまでの研究成果と本研究で得られた最新の知見をまとめた論考が、TROPICS誌に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年8月に開催される34th International Geographical Congress in Istanbulに参加して発表する予定であったが、COVID-19の影響で2021年8月に延期になった。また当初の計画ではザンビアで現地調査する予定であったが、現地調査の実施については世界状況をみきわめながら判断していく。実施できる場合には、現地調査ではカオンデの伝統的権威と周囲の人物に対して、調査地域における伝統的権威による統治の変遷について、より詳細に聞き取る。また地域住民に対して、カオンデの伝統的権威に対する評価を聞き取る予定にしている。史料から得られたデータだけでは、地域における伝統的権威による統治の変遷とその影響を詳細に解明することは難しい。伝統的権威と地域住民の視点から、地域史を明らかにすることで、ザンビア北西部において伝統的権威が担う役割について、実証的に検証することができる。2020年度にも引き続きこれまでの研究成果をまとめ、学会発表および論文投稿を進めていく。また2020年度には、これまでの本研究の成果が含まれた書籍(分担執筆)および論文が刊行される予定である。
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Causes of Carryover |
2019年度には為替レートの変動により、年度当初に予定したよりも現地調査で使用したレンタカー代が安価にすんだため、残額が生じた。2020年度には、現地調査および学会発表のための旅費と書籍等の資料購入費、成果発表のための論文投稿費等として使用する予定である。
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