2019 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Study of the Ethnoracial Self-images of Latin American Nations Represented in the Censuses in the Era of Multiculturalism
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19K20556
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
遠藤 健太 南山大学, 外国語学部, 講師 (20825567)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ラテンアメリカ / アルゼンチン / 人種・民族 / 多文化主義 / 先住民 / 国勢調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、①多文化主義時代のラテンアメリカ諸国の国勢調査において実施されてきた人種・民族統計の概要を把握することと、②とりわけ1990年代のアルゼンチンでみられた多文化主義的政策の実態と背景を分析すること、という2つの課題に取り組んだ。 ①では、エクアドル、ボリビア、ベネズエラ、アルゼンチンの4か国を事例として取り上げ、2000年代以降の各国の国勢調査における人種・民族統計について、質問票や集計結果等を比較分析するとともに、それらの調査の実施をめぐって各国内で展開されてきた政治的議論の諸相を把握した。この作業を通じて、各国内の人種・民族集団の政治的・社会的地位と国勢調査のあり方とがどのように関わってきたかを示し、今後の国別の事例研究に向けた具体的な課題を浮き彫りにした。ここまでの成果については、日本ラテンアメリカ学会定期大会の場で発表した。 ②では、アルゼンチンのメネム政権期(1989~1999年)に進展した(ようにみえる)多文化主義的政策に着目し、それらの政策の実態と背景を分析した。具体的には、ILO第169号条約の国会承認(1992年)、先住民の権利を明文化した憲法改正(1994年)、および、その他の関連法令の制定過程の分析を通じて、メネム政権における多文化主義とネオリベラリズムとの関係性(=アルゼンチンにおける「ネオリベラル多文化主義」の特質)を考察した。この考察は現在も継続中だが、途中経過を日本ラテンアメリカ学会中部日本研究部会研究会の場で発表した。 なお、今年度の研究は、図書館ILL等を利用した文献資料収集とその分析が主体となった(段取りとしてそちらを優先すべきと判断した)ため、あえて海外出張を実施しなかったが、次年度以降に実施する現地調査のための情報収集等の準備は順調に進められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の上記①の作業を通じて、各国の国勢調査関連の主要な一次資料(質問票、集計結果、報告書等)を収集・分析することができた。他方、人種・民族統計の実施をめぐって各国内で展開されてきた政治的議論の諸相については、さしあたり大部分が二次文献による情報収集にとどまったものの、それらの情報を国勢調査関連の一次資料と照合しながら考察することで、具体的な事例に基づいて国勢調査の政治性を浮き彫りにすることができたと言える。 上記②は、人種・民族統計の実施に象徴されるような多文化主義的な政策がアルゼンチンにおいて実践されてきた経緯を把握するために着手した作業であったが、この作業を通じて、1990年代のネオリベラリズム政権と多文化主義との関わり(あるいは「ネオリベラル多文化主義」のあり方)に焦点を当てた国際比較という、より普遍的な主題に繋げる可能性が開けた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度もまずはアルゼンチンの事例を中心に据えて、1990年代のネオリベラリズム政権から2000年代の左派政権にかけての多文化主義的政策(とりわけ対先住民政策)の変遷を視野に入れながら、そのなかで人種・民族統計の実施をめぐる議論がいかなる政治的位置を占めてきたかを分析していく。 特に次年度は現地での資料・情報収集に力点を置く。アルゼンチン出張では、同国の国勢調査の実施機関である国家統計センサス局(INDEC)の関係者や、先住民政策の実践において中心的な役割を担ってきた「国家先住民問題担当局」(INAI)の関係者等にインタビューを実施する用意ができているほか、現地でしか得られない文献資料のリストアップとその所在調査も進めている。
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Causes of Carryover |
「研究実績の概要」にも記した通り、今年度は国内での資料収集とその分析を優先し、海外出張を実施しないことにしたため、支出額が当初の予定額を大幅に下回ることとなった。次年度は現地調査のための海外出張を複数回計画しているほか、国内出張の数も増える見込みであるため(2020年度から客員研究員となった南山大学ラテンアメリカ研究センターへの出張等)、今年度の未使用額はそれらの使途に充てる予定である。
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