2021 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Study of the Ethnoracial Self-images of Latin American Nations Represented in the Censuses in the Era of Multiculturalism
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19K20556
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
遠藤 健太 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 助教 (20825567)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ラテンアメリカ / 国勢調査 / 多文化主義 / 先住民 / アルゼンチン |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、2022年に実施されることが決まったアルゼンチンの次回国勢調査に着目し、そこにおける人種・エスニシティ統計のありようと、それをめぐって展開されている政治的な議論や運動の動向を分析した。特に、この国勢調査において実施されることになる「先住民」調査の特徴と意義を、次の3つの文脈に位置づけて考察した。①アルゼンチンにおける先住民統計の前歴、②ラテンアメリカ(以下「ラ米」)諸国の国勢調査における多文化主義的傾向、③民政移管以降のアルゼンチンの先住民政策の経緯。 その分析・考察の概要は以下の通りである。 (1) アルゼンチンの過去の国勢調査およびその他の先住民関連調査の実施状況を整理したうえで、特に2001年以降の国勢調査の内容を詳細に分析した結果、2022年の次回国勢調査が、先住民およびアフロ系に関する質問を全住民に向けて実施する同国史上初の事例になるという事実を示し、その歴史的意義を明確にした。 (2) アルゼンチンと他のラ米諸国の過去の国勢調査の変遷を比較分析した結果、とりわけ2000年ラウンド以降に国勢調査の「多文化主義的」傾向が段々と強まってきているという点で、アルゼンチンが他の諸国と足並みを揃えていることを浮き彫りにした。一方で、アルゼンチンは先住民「言語」に関する調査が他の諸国と比べて遅れていることを指摘した。そして、現在同国の先住民団体が2022年国勢調査における「言語」調査の実施を求めて展開している政治運動の様相を示した。 (3) 民政移管(1983年)以降のアルゼンチンの先住民政策の経緯(特に先住民の権利保障に関わる法令)の分析を通じて、同国が同時期の世界的・汎ラ米的な潮流と足並みを揃えて、先住民の権利保障に関わる制度改革に取り組んできたさまを示した。そして、この動向が、2001年国勢調査以降の先住民統計の段階的な拡充の重要な背景を成していたことを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述の通り、今年度はアルゼンチンの事例に特化して詳細な分析をおこない、その結果、多文化主義や先住民の権利といった世界的・汎ラ米的な問題に関する一定の重要な知見を得ることができた。また、その研究成果を学会発表と論文投稿の形で公表することもできた。 しかし、コロナ禍に関わる下記の二つの理由により、本研究の遂行には当初の予定よりもやや遅れが生じてしまっている。 一つは、調査対象としているラ米諸国の国勢調査の延期である。当初の予定では、アルゼンチン、エクアドル、メキシコ等の「2020年国勢調査」における人種・エスニシティ統計の状況を比較分析するつもりであった。しかし、コロナ禍を受けて、メキシコ(や米国)では2020年に国勢調査が実施に至ったものの、アルゼンチン、エクアドル等では2022年まで延期されてしまった。そのため、昨年度(2020年度)はメキシコ(と米国)の事例を専ら分析の対象とし、今年度(2021年度)は、2022年の国勢調査実施に向けて現在アルゼンチンで展開されている議論や運動を分析対象とした。それらにおいては一定の研究成果をあげられたものの、現時点でアルゼンチンやエクアドル等の国勢調査はまだ実施前の段階にあり、必然的にこれらの結果の分析ができていない状況にある。 理由の二つ目は、コロナ禍の継続により今年度も海外出張が全く実施できなかったことである。昨年度と同様、現地調査に替わる手段としてのSNS分析やZOOMインタビュー等を活用することで多くの有益な情報を得ることはできたが、とはいえ、それらの代替手段で得られる情報には質量ともに限界があることも確かである。本研究がさらなる成果を上げるためには、やはり現地調査の実施が不可欠だと考える。 以上の理由により、今年度末をもって終了予定であった研究期間を1年間延長することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず、アルゼンチンの国勢調査と多文化主義・先住民政策・先住民運動に関する研究を継続する。特に、同国の2022年国勢調査における先住民「言語」統計のあり方をめぐる議論の内容を分析するほか、同国における先住民政策の一環としての「異文化間二言語教育(EIB)」の状況を分析する。 また、それと並行して、他のラ米諸国の国勢調査の事例分析にも着手する。2022年には、アルゼンチン、エクアドルのほか、チリ、ボリビア、パラグアイ、ブラジル等でも国勢調査が実施される予定となっており、これらの状況をできる限り取り上げて比較分析する。 上述の通り、昨年度と今年度はコロナ禍のため現地調査が全く実施できなかったが、次年度こそこれを実施したいと切望しており、実施できるという見通しをもっている。具体的には、国勢調査および先住民の権利保障に関わる政策の策定・実践に関与している政府機関(アルゼンチンの場合はINDEC、INAI等)関係者への対面インタビューや、先住民団体(Tejido de Profesionales Indigenas en Argentina等)の政治運動への参与観察等を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため予定していた海外出張が実施できず、その分の旅費予算を執行できなかった。次年度には海外出張ができる状況になると見込んでおり、そうなれば現地調査を積極的に実施するつもりである。具体的には、夏にアルゼンチン+もう1か国(もう1か国は国勢調査の実施状況等をみて決定する)に出張して、現地の関係者への対面インタビューや参与観察等を実施する。 また、昨年度と今年度は、国内の学会や研究会も全てオンライン開催となってしまったため、国内旅費を支出する機会も全くなかった。次年度には複数の学会や研究会が対面で開催されることがすでに決まっており、これらに参加するための国内出張も増えていくと見込んでいる。 今後もオンラインで効率化できる部分は引き続きそれを活用しながら、オンラインでは代替できない対面ならではの情報収集のために、次年度は旅費を有効に活用していきたい。
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