2022 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Study of the Ethnoracial Self-images of Latin American Nations Represented in the Censuses in the Era of Multiculturalism
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19K20556
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
遠藤 健太 フェリス女学院大学, 国際交流学部, 助教 (20825567)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ラテンアメリカ / 先住民族 / 言語権 / 多文化主義 / 国勢調査 / アルゼンチン |
Outline of Annual Research Achievements |
アルゼンチンの2022年国勢調査において、(全住民を対象とする調査としては史上初めて)先住民族の人口と先住民族言語の話者人口についての調査項目が盛り込まれるに至った。これらの調査項目の導入に至るまでには、政府や先住民族団体において様々な議論が展開されていた。こうした状況を踏まえ、2022年度の本研究では、国勢調査におけるこれらの調査の実現を「ラテンアメリカ地域における先住民族の言語権の保障」という文脈に位置づけて、その実現の意義と今後の課題について考察した。分析・考察の概要は以下の通りである。なお、下記の(1)(2)の分析・考察は、いずれも現在も継続中である。 (1) まずは、先住民族の権利(全般)と言語権(全般)に関わる国際法の経緯と現状を整理するとともに、近年の国連や米州機構等の国際機関による「先住民族の言語権」の保障に関する取り組みの状況を把握した。そのうえで、ラテンアメリカ諸国の国内法における先住民族の言語権の保障に関する議論と成果の経緯と現状を分析した。分析を通じて、先住民族の言語権の保障に関わる国際的な動向が、ラテンアメリカ諸国の先住民族政策に対して及ぼしてきた影響の具体的なありようを、条文やそれらをめぐる議論の内容に則して浮き彫りにした。 (2) 先住民族の言語権の保障に関わる取り組みのなかでも、ラテンアメリカ地域で特に注目されてきたものは、国勢調査における先住民族言語(話者人口等)の調査と、先住民族を対象とする二言語教育政策であった。2022年度の本研究では、前者に関するラテンアメリカ諸国の事例の比較分析を継続するとともに、後者の分析にも着手した。ここでも主にアルゼンチンに焦点を当て、二言語教育に関する連邦および州の制度と、学校現場での実施状況を分析した。特に、二言語教育の制度と実態が乖離している状況に注目し、その乖離の要因とそれを踏まえた今後の展望についても考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は、アルゼンチンをはじめとするラテンアメリカ諸国の国勢調査における先住民族関連の調査(特に言語調査)の実施状況と、これら諸国における先住民族の権利(特に言語権)保障の状況を分析し、それらの意義と今後の展望について考察を進めることができた。この研究の成果は、現時点ではまだ公表に至っていないが、2023年6月には学会での口頭発表を予定しており、それに続いて同年度中に論文としても発表する予定で準備を進めている。 しかし、当初の研究計画と比較すると進度にはやや遅れが生じてしまっている。その主な理由は、(1)2020年度-2021年度に予定されていたラテンアメリカ諸国の国勢調査の実施がコロナ禍のため延期されてしまったこと、および、(2)同期間中コロナ禍のため海外出張を実施できなかったことである。2022年度に入り、延期されていた各国の国勢調査がようやく実施に至り、また8月-9月にはようやく本研究として初めての海外出張を実現し、関係者へのインタビューや研究所での資料収集等を遂行することもできた。ただし、今回の海外出張時にはまだアルゼンチンの2022年国勢調査の最終結果が公表されていなかったこと等もあり、必要とする資料・情報の全てを収集するには至らなかった。したがって、本研究がさらなる成果を上げるためには、2023年度中に再び現地調査を実施することが望ましいと考える。 以上の理由により、2022年度末をもって終了予定であった研究期間を追加で1年間延長することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度も、アルゼンチンおよび他のラテンアメリカ諸国における国勢調査と先住民族の言語権保障との関わりについての分析・考察を継続する。今後の研究の具体的な推進方策は以下の通りである。 (1) 2023年度中に再び現地調査を実施し、資料・情報収集を行う。特にアルゼンチンの2022年国勢調査の最終結果に関する政府・有識者・先住民族団体らの見解等を収集して分析する。また、2024年に予定されているチリの国勢調査にも焦点を当て、そこでの先住民族関連調査の実施方法等をめぐり国内で展開されている政治的な議論に関する情報を収集して分析する。 (2) 先住民族の権利保障に関する国際機関の動向や、ラテンアメリカ域外の国々における政策実践の事例にも目を配り、それらの事例との比較分析を通じて、ラテンアメリカ地域の特徴を浮き彫りにする。特に、「異文化間二言語教育(EIB)」やそれに類する言語・教育関連の政策実践の実態の比較分析に着手する。そうした全世界を視野に入れたマクロな分析を取り入れることで、本研究をより広範な研究者にアピールできるものにしていきたい。
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Causes of Carryover |
2022年度はようやく本研究として初めての海外出張(アルゼンチン+チリ)を実施することができた。そのため、2020年度-2021年度よりも多額の予算を有効活用できたと考える。 しかし、2020年度-2021年度に海外出張旅費として支出できなかった分の助成金がまだ残っている状態となっており、また、コロナ禍による各国の国勢調査スケジュールの延期もあったため、2022年度中に無理やり予算を使い切るよりも、2023年度に再び海外出張を実施する方が望ましいと判断した。2023年度も、オンラインで効率化できる部分は引き続きそれを活用しながら、オンラインでは代替できない実地ならではの資料・情報収集を行うために、出張旅費予算を有効活用したい。
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