2019 Fiscal Year Research-status Report
A Study of the Effects of Tourist Attributes and Travel Forms on Tourist's Person Trips
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19K20573
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
河内 良彰 佛教大学, 社会学部, 講師 (70804889)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 観光回遊行動 / 社会ネットワーク分析 / 観光地の中心性分析 / 有向グラフ / 広域観光周遊ルート |
Outline of Annual Research Achievements |
観光庁は、複数の都道府県を跨いだ観光地を共通のテーマやストーリーで繋ぎ、交通アクセスを含めてネットワーク化することで、効率的に周遊できる「広域観光周遊ルート」の整備を進めている。本研究は、旅行者が巡りたくなる経路設定の予備的考察を図るべく、観光回遊に関する探索的調査で得られたデータを用い、社会ネットワーク分析を応用して観光ガイドブックの推奨ルートとの比較を行った。 旅行者の回遊行動のネットワーク構造を明らかにするために、とある観光地のノードを起点に「別の観光地への1回の移動」を有向グラフで「出次数1」と定式し、分析した。観光地間のネットワーク構造を可視化したうえで、すべての観光地間の移動を総和して各々の観光地の三中心性を算出した。これらの結果から、研究対象とした観光地の実態に即した旅行者の誘導策や観光地マーケティングの検討を行った。 分析に使用したデータは、2017年11月から2018年2月にかけて青森県三八上北地域の主要な観光地で実施したネットワーク調査の結果を用いた。旅行者の居住地、移動方法、訪問済または訪問予定の観光地・観光施設を問うた。また、観光ガイドブックについては、2019年6月から9月までに京都市の7箇所の書店で精査した。 観光ガイドブックの推奨ルートと旅行者の実行動を、社会ネットワーク分析を応用して比較検討した結果、ガイドブックが典型的なルートを描いた一方で、推移性が高い旅行者の多くは、定番の観光地を巡りつつ新奇性を追求する傾向があり、推奨ルートと旅行者の実行動との差異を明らかにした。観光回遊行動を把握するうえで、有向グラフによる社会ネットワーク分析の有効性を示した。 観光地の中心性分析を「自主的に目的地を選ぶ旅行者の流れや動きに形容される有向グラフによる社会ネットワーク分析」と定義した。観光学と社会ネットワーク理論を横断する学際研究として学術的に貢献した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、前任校である八戸工業大学の紀要に本研究の端緒を開く研究成果をまとめることができた。当初計画をおおむね順調に進展させることができた理由は、相手方の同意・協力を必要とする研究、また個人情報の取り扱いの配慮を必要とする研究に該当するうえで、2017年度にすでに得られていた調査結果と観光ガイドブックに記載された経路を分析対象とし、第三者の進捗具合や制約を受けることのない良好な研究環境のもとで、目の前のデータ解析と文献精読に真摯に向き合うことができたことによるところが大きい。 観光ガイドブックの選出に当たっては、第1に回遊ルートの記載、第2に最新情報の網羅、第3に特定出版社の出版物でないこと、第4に歴史や文化の解説が豊富な書籍を含めることを重視し、6冊を分析対象として円滑にデータ統合した。さらに、個人情報保護の取り扱いに関しては慎重に行い、得られたデータはすべて統計的処理をしたうえで、個人が特定されない方法でのみ公表することに留意した。 組織や個人生活の開示なくしては、経験的な社会科学は成り立たないため、これまでの研究では、その都度、関係者の許可を取り付け、インタビュー協力の同意を得てきた。調査にかかる課題は、調査協力が得られるか否かに限られるものではなく、社会調査が社会生活の一部である以上、全局面で倫理性が問われる。調査の適切な実施方法に関して、道義的調査の手続きとして含むものが何かを規定するため、尊厳や自尊心、プライバシー、民主主義的自由の喪失などの問題を生む可能性を衡量し、滞りなく進めてきた。 様々な人々の情報を収集し、分析することで成り立つ社会調査に際しては、個人情報の漏洩に伴う問題点を十分配慮することを心がけるとともに、調査対象者を不快にする言動や行動のないように努めた。一般社団法人社会調査協会の「社会調査倫理綱領」を読み込んだうえで分析を順調に進展させた。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急事態宣言は全面解除されたものの、いまだ予断を許さない状況にある。第2波・第3波を警戒し、観光を含む経済活動を再開させる新たな日常が求められている。本研究計画では、夏季に旅行者への対面調査を予定していたが、飛沫を防ぐことが最大限に要請されるため、一定時間の直接面接でデータ収集するアンケート調査の実施は困難となった。2020年度以降の研究計画を大幅に変更する必要があり、進捗に遅れが生じる見込みである。 大阪府が5月29日に運用を開始した「大阪コロナ追跡システム」では、利用者が入店時にQRコードをスマートフォンで読み取り、メールアドレスを大阪府に登録する。店舗の利用者の中に感染者がいた場合、居合わせた利用者を割り出して各自に通知し、健康状態に応じてPCR検査につなげるなどの迅速な対応を図る。Withコロナ下では、経済活動を再開しつつも、細心の注意を払いながらの行動が求められる。その際の最も有効なツールとして、スマートフォンなどのモバイル機器の活用が始まっている。そこで、本研究では、対面でのアンケート調査を中止し、モバイル機器によって収集された移動履歴などのビッグデータを解析することで、旅行者や住民の移動・回遊を把握する予定である。 先行きは依然不透明であるが、Afterコロナの時代を見据えて、旅行者・人の属性と旅行・移動形態の内実を把握し、回遊行動の分散と観光消費の促進のための知見を提供する。長期にわたる社会経済活動下で新しい生活様式が示され、人と人との間に一定の距離や空間を設ける必要性が指摘されるなど、もはや従来通りの観光は容易なことではない。こうした中での新たな観光の在り方を模索し、観光復興と関連産業の持続化の一助とする。現在、本研究の遂行に必要なビッグデータを得るために、すでにNTTドコモ担当者とメールと電話で打ち合わせを行っている。
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Causes of Carryover |
当初計画では研究開始初年度(2019年度)から多数の学生を調査員として雇用し、JR京都駅前における大規模なアンケート調査を予定していた。しかし、研究への着手後に先行研究が多数あることが判明したため、それらの通覧に努めるとともに解析方法をより精緻化しておく必要に迫られた。また、初年度の夏季までにJR京都駅側と調査にかかる調整をすることが時間の都合上できず、学生アルバイトを雇うことも難しかった。したがって、アンケート調査を2年目以降に実施することに変更したことから、予定していたアンケート調査にかかる国内旅費と人件費・謝金を拠出せず、次年度使用額が生じることとなった。 今後の使用計画については、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行しているため、外国人旅行者を含む観光客への対面調査は困難となった。依然不透明であるが、Afterコロナの時代を見据えて、旅行者・人の属性と旅行・移動形態の内実を把握し、回遊行動の分散と観光消費の促進のための知見を提供すべく進めている。現時点では、NTTドコモが提供するモバイル空間統計に着目し、スマートフォンから収集されたビッグデータを解析することで、旅行者や住民の移動・回遊を把握する計画である。したがって、次年度以降は、本研究の遂行に必要なビッグデータの購入に研究費を充てる予定であり、現在はNTTドコモ担当者とメールと電話で打ち合わせを行っているところである。
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