2021 Fiscal Year Research-status Report
ケアの倫理から考える新たな安全保障研究の構築―武力紛争下の性暴力を事例に
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19K20581
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
土野 瑞穂 明星大学, 教育学部, 准教授 (10739048)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 安全保障 / 性暴力 / 紛争 / 慰安婦 / ケア |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、武力紛争下における性暴力の事例として、元「慰安婦」女性たちが支援者とともに実践してきた尊厳回復のための営みに関する実態について調査を行った。ただし、当初の予定では、韓国、フィリピン、台湾でのフィールドワークを行う予定だった。しかし新型コロナウィルスの流行により、韓国人元「慰安婦」へのケア活動を行ってきた日本の団体である「関釜裁判を支援する会」に関する文献調査を行うことで代替した。調査の結果、「ケアの倫理」から「慰安婦」問題を捉えたとき、公的な社会運動からは見えてこない、被害者の声や想い・行動、支援者たちとの相互依存性が浮かび上がってきた。そして主に以下の2点を明らかにした。
1.裁判支援にとどまらないケア活動 「関釜裁判を支援する会」は、被害者の裁判支援だけでなく日常的なケア活動(来日の際のおもてなし、旅行、誕生日のお祝いなど)を行うことで、当事者が生き延びやすくなり、声を挙げる体力・気力を取り戻すのを支援してきた。その人の本来の強さの回復や生きる希望につながっていったと考えられる。 2.私事化されてきたケア活動 「慰安婦」問題をめぐって裁判闘争やデモが注目される中で、上述した支援活動は不可視化されてきた。傷ついた他者や力を奪われた他者への気遣いは公的に論じられてこなかったという、ケアの性質(ケア活動=女性の労働)が、「慰安婦」問題にも見いだせる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルスの流行により、海外でのンタビュー調査や学会報告を行うことができず、研究計画の変更を余儀なくされたため。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は海外渡航が可能になる可能性があるため、被害者と支援者の間で展開されてきたケア活動について、韓国やフィリピン、台湾で調査を行うことを予定している。それらの聞き取り調査をもとに、これまで実施してきた理論研究と合わせて、本研究の最終的なまとめを行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの流行により、海外調査・海外での学会報告が叶わなかったため、海外調査に充当予定だった費用が余ることとなった。この費用については、2022年度の海外調査費や図書費に充当させていただく予定である。
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