2020 Fiscal Year Research-status Report
女性の身体性と主体性の関係をめぐるコンフリクト―帝政期ドイツ市民女性運動を中心に
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19K20584
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
内藤 葉子 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 准教授 (70440998)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | マリアンネ・ヴェーバー / ドイツ女性団体連合 / 女性参政権 / 母性保護連盟 / 優生学(人種衛生学) / 結婚 / 性愛(エロス) / ケアの倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、帝政期ドイツ市民女性運動の担い手の思想と活動を、女性の身体性と主体性の関係をめぐるコンフリクトのなかで再定位し、明らかにすることを目的としている。2020年度は研究実施計画に従い、以下の点を中心に進められた。 第一に、政治思想学会報告をオンライン上で行った。市民女性運動の担い手の一人であるマリアンネ・ヴェーバーが、女性参政権に集約される女性の政治参加の意義と政治的主体性をどのように論じたかを報告した。この内容を加筆修正のうえ学会誌に投稿し掲載が確定した。 第二に、帝政期ドイツの性とセクシュアリティをめぐる状況をふまえて、マックス・ヴェーバーとマリアンネ・ヴェーバーの思想的同異点と影響関係を、性・性愛・家族・結婚をめぐる両者のテキスト群から分析し公表した。 第三に、帝政期ドイツにおける社会ダーウィニズムの影響下、優生学や性科学などの科学とフェミニズムが融合した母性保護連盟では、性や生殖という〈自然〉への介入を肯定する視点があったことを確認した。それに対してマリアンネ・ヴェーバーが〈自然〉と〈倫理〉を峻別する立場から、生物学的思考に基づく一元論の潮流を批判したことを詳らかにした。さらにこの点で、マックス・ヴェーバーらの科学的方法論論争がジェンダー領域とも接点があることを指摘した。本内容を学会誌に投稿し掲載が確定した。 その他、女性の身体性と主体性の関係について、第一にケアの倫理から、第二に人権や法/権利の観点から哲学的・思想史的に検討し論文を発表した。また日本政治学会分科会において、マックス・ヴェーバーとシュミットに関する報告の討論者を務めた。これらの成果により、本研究課題を別様の観点から捉え直す機会を得た。さらに「性の管理」の国際比較研究会に参加し、帝政期の性売買をめぐる管理制度と論争を探究した。他国の状況との比較により性と権力をめぐる状況の立体的把握につながった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度も引き続き、既存の文献整理と先行研究の確認、検討すべき資料・文献の具体的確定および国内での収集を行った。国内で入手不可能な資料については、ドイツでの資料収集を念頭に、必要な資料の洗い出しを行った。また研究会・学会で報告を行い、論文公表に向けて準備を進め、査読付き学会誌に二本投稿した。その他にも本研究テーマに関連する内容の報告を行い、論文を公表した。新型コロナウィルス感染拡大の状況により国外で資料収集することは不可能となったが、それ以外については、2020年度の研究計画書に照らして予定通り作業を進めている。以上により、当該区分を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の推進方策については、基本的には研究実施計画に従って進めていく。2019年度・2020年度に収集した資料の読解を急ぐとともに、必要な資料の収集も継続して行う。休暇を利用して渡独し、図書館や公文書館で国内では入手不可能な資料の収集および調査を行う。帰国後、資料と調査結果を整理し読解作業に入る。また今年度に予定されているシンポジウムや講演会で本研究課題に関連する報告を行うため、その準備を進める。これに関連して、シンポジウム準備研究会においても報告を行う。シンポジウム後は報告内容を論文化する作業に着手する。その他、関連するテーマの研究会にも継続的に参加し、報告と意見交換を行う。また紀要への投稿や学会報告への申請も行う予定である。 ただし、新型コロナウィルス感染拡大に伴う今後の状況次第では、計画を変更せざるをえない可能性もある。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大防止のため、予定されていた学会・研究会がすべてオンライン開催され、国内出張費として予算執行できなくなった。また予定していたドイツへの海外出張は、外務省および勤務先の大学より渡航中止勧告の対象国であったため、断念せざるをえなかった。この予算は次年度に国内・国外出張費として使用する予定である。今後の状況により出張費としての使用が難しい場合は、文献資料収集など物品費として予算執行を行う。
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Remarks |
以下の発表も本研究課題に関連するものである。 研究会報告:内藤葉子「ケアの倫理と依存-人間(性)と動物(性)の関係をめぐって」関西唯物論研究会(2020年)
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