2021 Fiscal Year Research-status Report
女性の身体性と主体性の関係をめぐるコンフリクト―帝政期ドイツ市民女性運動を中心に
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19K20584
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
内藤 葉子 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 准教授 (70440998)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | マリアンネ・ヴェーバー / 市民女性運動 / 女性参政権 / 母性保護連盟 / 人種衛生学(優生学) / 自然 / 売春管理制度 / 主体性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、帝政期ドイツ市民女性運動の担い手の思想と活動を、女性の身体性と主体性の関係をめぐるコンフリクトのなかで捉えることを目的としている。2021年度は以下の内容について研究を進めた。 第一に、帝政期からヴァイマル初期にかけての女性参政権をめぐる動向を市民女性運動の観点から明らかにした。とくにその担い手の一人であったマリアンネ・ヴェーバーが、女性の政治参加の意義をリベラル・デモクラシーの立場から擁護したことを分析した。この内容は政治思想学会誌に掲載された。 第二に、女性の主体性と身体性に関する議論と性をめぐる自然科学的言説が交差する点において、優生思想の影響を受けた母性保護連盟の思想動向、およびそれに対峙して、事実と規範を同一視する自然科学的一元論を批判したマリアンネ・ヴェーバーの思想を検討した。彼女の視座は、価値自由と科学の客観性をめぐるマックス・ヴェーバーの方法論研究とも接点を有することを指摘した。この内容はジェンダー史学会誌に掲載された。 第三に、売春管理制度を中心に、警察権力や医学的言説が女性の身体性をどのように管理したかという問いに取り組んだ。またその制度の廃止をめぐって、宗派的男性組織、男性医師団体、パプリッツやシェーフェンら市民女性運動の動向を検討し、性の管理から性解放まで議論が分化していく様相を分析した。 第四に、フィヒテのドイツ観念論、リッカートの新カント派哲学、ヴェーバーの国民経済学から学んだマリアンネ・ヴェーバーの初期の議論に注目し、ドイツ・リベラリズムとフェミニズムの思想的関連性を探究した。この内容の一部をシンポジウムで発表した。その他、ケアの倫理・人間の尊厳・民主主義の関係について考察を進め、女性の身体性と主体性の関係を現代的視点から捉えなおすことで、本研究課題の充実化をはかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究成果を査読付きの学会誌に二本公表し、研究会、講演会およびシンポジウムで本研究内容に関する報告を行った。さらに研究を進めるため、既存の文献整理と先行研究の確認、検討すべき資料・文献を確定し、国内での収集を行った。ただし、新型コロナウィルス感染拡大の状況により、渡独して資料収集することは不可能となっている。このため資料収集は十分には行えていない。それ以外は2021年度の研究計画書に照らして、おおむね予定通り作業を進め成果を得ているため、当該区分を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の推進方策については、基本的には研究実施計画に従って進めていく。2019-2021年度に収集した資料の読解を急ぐとともに、必要な資料の収集も継続して行う。休暇を利用して渡独し、図書館や公文書館で国内では入手不可能な資料の収集および調査を行う。帰国後、資料と調査結果を整理し読解作業に入る。また講演会を企画し、本研究課題に関連する報告を行うための準備を進める。必要に応じて紀要への投稿を行い、海外の雑誌への投稿にも挑戦する。さらにこれまでの研究成果を著書としてまとめる作業を進める。ただし、新型コロナウィルス感染拡大に伴う今後の状況次第では、計画を変更せざるをえない可能性もある。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大防止のため、予定されていた研究会・学会・シンポジウムはほぼすべてオンライン開催された。そのため出張費として予算執行できなくなった。また資料収集先のドイツは外務省および大学当局から渡航禁止対象国であり続けたため、海外渡航も難しかった。これらの予算は次年度の国内出張費や国外出張費として使用する予定である。ただし、今後の状況により出張費としての使用が難しい場合は、研究に必要な図書費や物品費、もしくは研究成果の刊行に向けて予算執行を行う。
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Remarks |
以下の発表も本研究課題に関連する。 第33回東海地区政治思想研究会にてマックス・ヴェーバーに関する新刊図書合評会のコメンテーターを務める(2021年)。
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