2022 Fiscal Year Research-status Report
女性の身体性と主体性の関係をめぐるコンフリクト―帝政期ドイツ市民女性運動を中心に
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19K20584
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
内藤 葉子 大阪公立大学, 大学院現代システム科学研究科, 准教授 (70440998)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ドイツ市民女性運動 / マリアンネ・ヴェーバー / J・G・フィヒテ / マックス・ヴェーバー / ハインリッヒ・リッカート / 人間の尊厳 / 第一次世界大戦 / 戦争協力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、帝政期ドイツ市民女性運動の担い手の思想と活動を、女性の身体性と主体性の関係をめぐるコンフリクトのなかで捉えることを目的としている。本年度は以下の内容について研究を進めた。 第一に、マリアンネ・ヴェーバーの初期の思想形成が新カント派を通じたドイツ観念論や国民経済学の影響下にあったことを明らかにすることで、マックス・ヴェーバー周辺の知的環境と交差して展開したドイツ・フェミニズムの思想的実相に接近した。彼女は資本主義経済がもたらす社会的弊害への批判的観点をフィヒテの「社会主義」論から積極的に取り入れた。「人間の尊厳にかなう生存への権利」と国家によるその保障を論じたフィヒテへの注目は、ジェンダー不平等な社会構造を批判的に捉える視座の形成につながることを突き止めた。 第二に、講演会「戦争とジェンダー-〈日常〉と〈非日常〉を貫く軍事主義と女性の主体性」を企画・主催し、第一次世界大戦を契機に市民女性運動が戦争協力と平和主義に分化する様相を論じる報告を行った。さらに日本、ソ連とウクライナ、アメリカの事例についての報告者を加え、軍事主義が戦時と平時を貫いて女性の主体性に影響を及ぼすことを多角的に浮彫にした。 第三に、バイエルン州立図書館および手稿室において資料を収集した。バイエルン学士院では、マリアンネを含むマックス・ヴェーバー周辺の女性たち、およびヴェーバー研究の世界的動向について情報を得た。 第四に、女性の身体性と主体性に関する議論と、帝政期の性をめぐる科学的言説との影響関係を論じた論文を国際雑誌に投稿した。その他、2021年の講演会「学知の危機とマックス・ヴェーバー」の報告内容をまとめ、日本政治学会では「女性と「存在の政治」再考」に討論者として参加した。またケアの倫理と人間の尊厳に関する論文を執筆した。これらの成果により本研究課題を現代的観点から捉える機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、これまでの研究成果を国内の学術雑誌、シンポジウムの報告書や講演会記録集において公表し、国際雑誌への論文の投稿にも挑戦した。また研究会、講演会および学会で本研究内容に関する報告を行った。さらに本研究課題に関する資料・文献を国内および国外で収集することができた。2022年度の研究計画書に照らして、おおむね予定通り作業を進め成果を得ているため、当該区分を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス感染拡大に伴う海外渡航禁止により国外での資料収集が滞り、また国内出張の機会も減ったため、予算執行が計画通りにはいかなかった。研究計画を1年延期することにより、2022年度までに収集した資料と調査結果を整理し、読解作業を進める。そのうえで、これまでの研究成果をまとめる作業に集中する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大防止のため、予定されていた研究会・学会・シンポジウムはすべてオンライン開催された。また資料収集先のドイツは外務省および大学当局から渡航禁止対象国であり続けたため、海外渡航も不可能であった。そのため国内・国外出張費として執行できなくなった予算が累積した。2022年度は各方面の状況をみながら国外出張を敢行したが、十分な日数を確保するには至らなかった。この助成金については、次年度の研究に必要な図書費や物品費、国内出張費、もしくは研究成果の刊行に向けて予算執行を行う予定である。
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Remarks |
本研究課題に関連して、講演会登壇者3名をメンバーに「戦争とジェンダー」研究会を主催した(第1回2022年5月11日、第2回6月22日、第3回7月20日、第4回8月24日、第5回9月22日、第6回10月29日)。 内藤葉子「ケアの倫理からの平等と尊厳の再考―持続可能性とジェンダー―」『人生が輝くSDGs』(せせらぎ出版、2022年)所収。
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