2023 Fiscal Year Research-status Report
女性の身体性と主体性の関係をめぐるコンフリクト―帝政期ドイツ市民女性運動を中心に
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19K20584
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
内藤 葉子 大阪公立大学, 大学院現代システム科学研究科, 教授 (70440998)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | マリアンネ・ヴェーバー / 自然 / 優生思想 / 母性保護連盟 / マックス・ヴェーバー / 新カント派 / ケアの倫理 / 人間の尊厳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、帝政期ドイツ市民女性運動の担い手の思想と活動を、女性の身体性と主体性の関係をめぐるコンフリクトのなかで再定位し、明らかにすることを目的としている。2023年度は以下の点を中心に進めた。 第一に、国際ジャーナルに投稿し査読を経た本研究課題の英語論文を、加筆修正のうえ再投稿した。内容については、帝政期ドイツにおいて性をめぐる自然科学的言説と女性の主体性に関する議論が交差するなかで、母性保護連盟に集った急進派のフェミニストや男性科学者の言説、およびそれらを批判的にみていた穏健派のマリアンネ・ヴェーバーの思想を〈自然〉概念を中心に検討することで、ヴェーバーが女性の主体性をどのように構想したのかを明らかにしたものである。本研究は、ヴェーバーの批判が当時の自然科学的言説に内在する優生学的関心への警戒と関連していること、またその批判の立脚点は、彼女の市民的価値観だけにあったのではなく、「存在(Sein)と当為(Sollen)の区別」「事実と価値の分離」を唱える新カント派哲学にもあったことを強調した。さらにこの点は、夫であるマックス・ヴェーバーを中心としたドイツ社会学創成期における科学の客観性をめぐる論争に接していることも指摘し、ジェンダーに関わる領域もこうした知的状況と無縁ではなかったことを突き止めた。 第二に、公私二元論を培ってきた西洋政治思想をフェミニズム理論の観点から批判的に考察するものとして、ケアの倫理と人間の尊厳に関する論考を英語論文として執筆し共著として公表した。この成果により、女性の身体性と主体性の関係について哲学的・思想史的に考察を深め、本研究課題を長期的かつ別様の観点から捉えなおすことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染拡大防止のため、資料収集先のドイツは外務省および大学当局から原則としてレベル3の渡航禁止対象国であり続け、海外渡航による資料収集の予定が当初よりずれこんだ。そのため収集した資料の読解に遅れが生じている。また2023年度からあらたな科研費研究を代表者として進めることになり、本研究を総括する作業に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
必要に応じて資料収集を行い、資料読解を進めて研究を補完しながら、これまでの研究をまとめあげる作業に着手する。
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Causes of Carryover |
2023年度からあらたな科研費研究(基盤研究C)に代表者として採択され、この課題を中心に進めたことによる。また別の科研費研究(基盤研究B・分担)の研究課題と予算執行を優先的に進める必要もあった。この助成金については、本研究課題の総括に取り組むために必要な図書費や物品費、国内出張費、もしくは研究成果の刊行に向けて予算執行する予定である。
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Remarks |
本研究課題に関連して、以下の文章を執筆した。「上山安敏先生を偲んで―〈魔術の園〉の思想世界―」『上山安敏先生追悼文集』 (2023年)。研究成果の図書に所収された論文は以下のものである。Yoko NAITO, Rethinking Equality and Dignity from the Ethics of Care: Sustainability and Gender(Chapter 15).
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