2019 Fiscal Year Research-status Report
軟X線発光分光用の温度可変溶液セルの開発と水の構造解析への展開
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19K20598
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山添 康介 東京大学, 物性研究所, 特任研究員 (70815761)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 軟X線発光分光 / 溶液セル / 温度 / 相転移 / 軟X線吸収分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではこれまでの軟X線発光分光用の溶液セルに温度制御機能を付加することで、温度変化や相転移現象に関係する水の構造解析を実現することを目標としている。本年度は温度可変溶液セルを開発し、その性能の確認実験を行った。温度制御範囲は -30℃~80℃ を達成した。最低温度の -30℃ は従来の溶液セルより -15℃ 程度低温である。その結果、液体のエタノールの軟X線発光分光スペクトルの温度依存性を観測することに成功した。液体のエタノールの軟X線発光分光スペクトルの温度依存性については理論計算と比較し、液体のエタノールの水素結合構造と温度の関係を明らかにするべく議論を進めている。また、今回開発した温度可変セルを応用研究へ展開する取り組みも 2 つ進めている。1 つ目は温度変化によって金属有機構造体 (MOF) が水分子を吸脱着する過程の MOF 中の有機分子の電子状態変化の観測を目指すものである。2 つ目は高分子の温度相転移に伴う水和構造変化の観測を目指す研究である。この高分子はたんぱく質の構造転移を議論するモデル分子とみなされている。これらと並行して今回開発した温度可変セルの改良も行っている。課題は温度安定性の向上である。具体的には溶液セルの温度制御を行うための恒温槽と溶液セルを繋ぐ配管の断熱性がやや低いため、より高い断熱性を備えた金属チューブを選定し、改良作業に着手した。これらについては来年度も継続して取り組み、さらなる温度安定性を実現し、応用研究を推進する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ではこれまでの軟X線発光分光用の溶液セルに温度制御機能を付加することで、温度変化や相転移現象に関係する水の構造解析を実現することを目標としている。本年度は、温度可変溶液セルおよびシステムの開発を主な目標とした。具体的には温度制御機構の要素技術のテストと実用的な研究のための予備検討を行う予定であった。概要で述べた通り、温度可変溶液セルの開発については、目標としていた温度制御範囲 -30℃~80℃ を達成した。また液体のエタノールの軟X線発光分光スペクトルの温度依存性の測定に成功しており、順調に進んでいる。温度制御機能の一つであるSiC基板上のMOF試料の温度制御しながら軟X線発光分光を行うことも実現しており、応用研究への展開も順調である。来年度以降、それらを継続していく。総合的に判断して、おおむね研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果を基に軟X線発光分光用の温度可変溶液セルの開発とその高度化、それをも用いた応用研究に取り組む。軟X線発光分光用の温度可変溶液セルの開発については、温度依存性の計測が可能なレベルに達してきたため、それを MOF が温度変化で水分子を吸脱着する過程の電子状態変化の観測へと応用する。この系については予備検討段階で軟X線吸収・発光スペクトルの観測に達成しており、今後再現性を確認するとともに論文発表も目標とする。もう 1 つの応用研究の方では、目標とする高分子の温度相転移に関係する水の構造変化の観測について取り組む。また本装置のさらなる高度化を実現するために、金属断熱チューブの導入などにより高い温度安定性を実現する。これらを継続して、最終年度中の実現を目指す。
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Research Products
(3 results)