2021 Fiscal Year Research-status Report
心的イメージを操作する能力の進化過程―物理的因果理解の比較認知科学的検討―
Project/Area Number |
19K20652
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
永野 茜 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 訪問研究員 (50823019)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 心的表象操作 / 物理的因果理解 / 道具使用 / 比較認知科学 / 進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度も引き続き,心的表象操作能力の進化過程を解明することを目的に研究を行った。心的表象操作能力とは,目の前にある物体を実際に操作しなくても,その物体が環境に及ぼす結果を推測する能力のことである。先行研究では,心的表象操作の進化過程を明らかにするために,非ヒト動物を対象に道具使用課題が実施されてきた。多くの道具使用課題は,被験体に,手や前肢の届かない位置にある餌報酬を道具を用いて獲得させるというものである。 まず,齧歯類デグーを対象に,道具使用で不可欠な空間記憶能力について検証し,その実験結果について,関西心理学会第132回大会と日本動物心理学会第81回大会にて発表した。更に,本研究の基となる齧歯類ラットの道具使用行動についての研究と,動物の道具使用行動全般について執筆した章の内容が受理された。この章が含まれる書籍は,2022年7月にRoutledge社から出版予定である。また,ラットの道具使用行動についての論文を1本執筆し,海外誌に投稿した。 非ヒト霊長類の心的表象操作能力を検証するための実験準備も行った。具体的には,実験計画の考案と,実験装置の作製,被験体の実験場面への馴致を行った。新世界ザルの一種であるフサオマキザル対象の道具使用課題準備のため,餌報酬をテーブルの上に置き,その餌を直接手で取らせる訓練を通して,実際の訓練における被験体と,餌報酬や道具の間の適切な距離を推定した。その後,旧世界ザルの一種であるニホンザルの馴致も行った。ニホンザルやアカゲザルを対象に道具使用課題を実施するための,手作業架台やセンサーボックスのデザインの考案も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の基礎となる,ラットの道具使用行動に関する論文を1本執筆・投稿し,海外の出版社から出版予定のHandbookのうち動物の道具使用全般に関して執筆した内容が受理されたため。また,新世界ザルや旧世界ザルを対象とした道具使用課題の考案や実験準備も行うことができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,新世界ザルよりも進化的にヒトに近い旧世界ザルの一種であるマカクザルを対象に,心的表象操作の進化過程を検討する。道具使用課題を実施し,道具使用課題遂行時の脳神経活動を測定したり,特定脳領域の一時的かつ非侵襲的な不活性化が道具使用課題成績に与える効果を検証することで,進化的に新世界ザル以降で見られる高度な心的表象操作能力を可能にしている神経メカニズムの解明を目指す。脳神経活動を測定するためには,被験体に苦痛を与えない範囲で被験体の動きを制限する必要があるため,新たな行動課題の開発も行う。得られた知見は,速やかに国内外での学会発表や,海外誌での論文発表という形で報告する。
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Causes of Carryover |
マカクザル対象の行動課題用の装置として,センサーボックスの作製を業者に依頼したが,世界的な赤外線センサー不足のため,年度内に納品されなかったため,次年度使用額が生じた。センサーボックスは2022年6月までには納品される予定である。
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