2020 Fiscal Year Research-status Report
粒子化ハイドロゲルを用いた血管網を有する脳組織の構築
Project/Area Number |
19K20656
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
谷川 聖 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任助教 (00823353)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 神経組織工学 / 再生医療 / 神経再生 / ハイドロゲル |
Outline of Annual Research Achievements |
神経再生は、多くの研究者が最も困難な研究テーマとして認識している。近年の研究では、脳の特徴的な修復機構である空洞の形成と、神経発生部位の不足が、神経再生を困難にしている原因であることが明らかになっている。これらの問題を解決する有用な方法として神経組織工学が注目されているが、空洞内の組織回復や機能改善の報告はなく、新たな基材や移植方法の開発が望まれている。本研究では、空洞と脳を一体化する新たなハイドロゲルを開発し、このハイドロゲルと2期的な細胞移植により、空洞病変に対して高い細胞移植効率を達成した。 ハイドロゲルへの接着については、両電性-中性荷電ハイドロゲルにおいて神経幹細胞が接着し、生存できることを見出し、荷電を利用した合成材料の生理活性付与を実現した。多孔質性はクライオゲル化技術によって得られた。この基板をマウス脳の空洞に移植する実験では、脳実質からの各種細胞の浸潤が確認されるとともに、空洞による脳の変形を防いだ。 またVEGFを浸漬させることで、血管の形成が可能となった。さらに、移植したハイドロゲル内に神経幹細胞を2期的に移植することで、コントロールと比較し移植細胞の多くが生存することを確認した。2段階の移植を行うことで、移植された細胞が急性期の過酷な環境にさらされることを回避し、より効果的な移植を行うことができたのである。 脳の欠損部に細胞移植を併用して空洞内の組織を回復させる研究はほとんどなく、今回の研究が空洞化によって失われた神経機能の回復に向けた新たな一歩となることを期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的であるハイドロゲルを用いた脳組織再生への一連の手技を確立することができた。具体的な成果を以下に記述する。神経細胞の足場に適した物性を見出したこと、ハイドロゲルの形状をクライオゲル化により多孔質にすることで脳内へ移植した際に脳脊髄液により洗い流されることがない3次元構造を有する足場基質を作成したこと、移植実験により脳実質からの細胞や血管形成に伴う基質と脳との統合が確認されたこと、同領域への2期的な細胞移植は移植効率を有意に高めることを見出した点である。
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Strategy for Future Research Activity |
空洞病変に対しハイドロゲルと細胞移植を用いた一連の手技を確立した。移植細胞はハイドロゲルの多孔質足場内で広く生着したが、脳実質の細胞とのネットワーク形成は機能回復に重要であり、その有無について検討する。またこれまで移植細胞はマウス神経幹細胞を用いていたが、現在ヒトiPS細胞を用いた機能的な細胞の樹立を施行しており、細胞移植により特定の機能を付与できるか検討する。
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