2020 Fiscal Year Research-status Report
多階層スケールの流動解析による赤血球と内皮グリコカリックスの力学的相互作用の解明
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19K20659
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
宮内 優 東北大学, 流体科学研究所, 助教 (00758691)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 赤血球 / 遠心力 / 曲げ剛性 / 分子動力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
血管内腔を覆う血管内皮細胞の膜表面にはグリコカリックスと呼ばれる,糖鎖に連なったブッシュ状の高分子膜タンパク群が存在しており、グリコカリックスの損傷が様々な循環器系疾患を引き起こすことが知られている。本研究は赤血球とグリコカリックスの力学的相互作用の解明を目的としている。本年度は連続体スケールにおける傾斜遠心力場での赤血球挙動の解析への曲げ剛性モデルの導入と、脂質二重膜に対する分子動力学の基礎的検討を行った。 赤血球膜がもつ曲げ剛性に対しては、Helfrichモデルを採用し、検証問題により平均曲率やGauss曲率が精度よく再現され、作成したプログラムの妥当性を確認した。傾斜遠心力場中の赤血球の解析では、曲げ剛性の導入により赤血球膜のwrinkleの発生を防ぐことができたが、数値的不安定により定常状態に至る前に計算が破綻した。 脂質二重膜の分子動力学では、平衡化計算と、平行に置かれた二枚の脂質二重膜の一方を一定速度で移動させる方法を検討した。この計算系は、血管内皮上を移動する赤血球膜の状態を簡略化した設定である。脂質二重膜の平衡化計算に対しては、これまでにいくつかの方法が提案されているが、今回は単純なNPTアンサンブルを採用し、その解析で平衡状態おける膜の厚みや脂質分子あたりの面積など、実験結果とよく一致する結果が得られ、その妥当性を確認した。膜を移動させる解析は、一定速度を生じさせる力を、膜を構成する分子に与えることによって実現し、速度が大きな場合には二つの膜の間にクエット流れが再現されることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、連続体スケールにおける傾斜遠心力を受ける赤血球の数値シミュレーションのための曲げ剛性モデルのプログラムを実装し、さらに、分子スケールの解析では脂質二重膜の平衡化と膜の移動による流れの駆動方法を確立した。本年度の実施予定であったグリコカリクスの実装やその連続体スケールの数理モデルの構築などの遅れが生じているが、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
連続体スケールの解析に対しては、単純な問題設定を通して数値的不安定の原因の解明と改善を行う。分子動力学解析に対しては、脂質二重膜に対してグリコカリクスを導入する。
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Causes of Carryover |
COVID-19による学会の現地開催の中止や計算機の未購入によって残額が生じた。翌年度に計算機の購入等に使用する予定である。
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