2019 Fiscal Year Research-status Report
マイクロ曲面操作で切り拓く細胞の形状認識機構と接着界面力学のメカノバイオロジー
Project/Area Number |
19K20679
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山下 忠紘 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 助教 (00827339)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 曲率 / 血管平滑筋細胞 / 配向性 / マイクロデバイス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、直径数百μmの制御されたマイクロ曲面上で細胞・組織を培養する新しいプラットフォームを開発し、曲率-細胞張力-接着力からなる細胞接着界面の力学バランスが三次元組織の形態・機能に与える影響を世界で初めて定量解析することを目的とし、これを実現するために初年度は細胞培養面の曲率を操作できる細胞培養系の構築に取り組んだ。 初めに、シリコンゴム製の薄膜を加工し、その上で細胞を培養することができる培養チャンバーを製作した。光硬化性樹脂とフォトリソグラフ法を用い、長方形や円形の貫通孔を複数持つマイクロスリットを製作した。さらに、アクリル板を切削し、ガラス板と圧力コントローラー・ダンピングチャンバー・真空ポンプを接続することで減圧装置を製作した。これらの部品を組み合わせ、空気圧により細胞培養面の曲率を操作し、その様子を顕微鏡下で観察可能な新しい培養デバイスのプロトタイプを製作した。このデバイスは細胞培養面の立体形状を、0-2/mmの曲率を持つ半円溝や半球凹面状へ可逆的に変形・維持することが可能であった。 次に、本デバイスを用いて、培養面の曲率変化に対するヒト大動脈血管平滑筋細胞の応答観察に取り組んだ。細胞培養面を円形溝状に変形し、細胞が溝方向に沿って配向する様子を確認した。次に、マイクロスリットと減圧系を操作することで、細胞培養を継続したまま半円溝の方向を直角方向に変化させ、細胞が配向方向を変化しながら新しい形状に適応する様子を顕微鏡下で経時観察することに成功した。培養面の曲率変化に対して細胞が動的に応答する様子を初めて捉えた本成果は、曲面制御マイクロデバイスのコンセプトと動作原理を実証するものである。本研究成果をまとめた論文はAnalytical Sciences誌に受理され、近日中に公開される予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画に従って、細胞培養面の曲率を操作可能なマイクロデバイスを開発し、その動作原理を実証することができた。現在までの進捗状況は順調である。 マイクロデバイスの開発にあたり、特にデバイス状で細胞培養を行う際に、当初想定していた以上の時間と労力を要した。具体的に、細胞培養と観察に適した耐久性と透過性を持つシリコンゴム薄膜の選定に時間を要した。また、顕微鏡上のステージインキュベーター内で細胞を長期的に培養するにあたり、温度と湿度を十分に維持し、なおかつ遮光を行うための実験系全体の細かな改良と試行錯誤に、大きな労力を要した。 その一方で、年度当初に購入した3Dプリンターを用いて、マイクロデバイスや周辺装置の接続に必要なアタッチメントを短いスパンで試作・評価できるようになったため、実験装置の開発に関わる作業を当初の計画で想定していたよりもスムーズに進めることができた。 上記の通り、個々のステップにおいては遅延や想定以上のスムーズな進行が見られたが、全体を総合すると研究は概ね当初の計画通りに進展した。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、初年度に確認された接着面の曲率の変化に対する血管平滑筋細胞の追従挙動を詳細に観察し、細胞がmmスケールの曲面を認識する仕組みの理解を目指す。その第一歩として、細胞が培養面との接着に用いる膜タンパク質インテグリンの活性阻害や、細胞内張力の抑制操作を行い、曲面に対する追従挙動にどのような変化が現れるかを観察することで、細胞接着が曲面認識に与える影響を解明する。このような研究計画を遂行するにあたり、初年度に製作した曲面操作マイクロデバイスを用いて各種の実験を進めていく。この基本方針は、当初の研究計画の通りである。 一方で、初年度に本マイクロデバイスを用いる細胞培養実験の原理検証を進める過程で、現状の装置構成には、1. 細胞の観察が蛍光顕微法に限られる 2. 高NAレンズを用いた細胞内小器官の観察が困難である といった、当初想定していなかったいくつかの技術的制約が存在することを把握した。これらの制約を緩和あるいはうまく回避しながら上記の研究を進めるため、顕微鏡の構成変更や、生細胞中の細胞骨格を蛍光標識するLifeActプラスミド遺伝子導入を行うことを検討している。後述の経緯で生じた次年度使用額を、これらの実験に必要な物品の購入に充てる予定である。 以上のように、細かな技術的課題を解決しながら、血管平滑筋細胞がマイクロ曲面上で示す動的な応答挙動を詳細に解決し、曲率-細胞張力-接着力からなる細胞接着界面の力学バランスが三次元組織の形態・機能に与える影響の定量解析およびその詳細の理解を目指す。
|
Causes of Carryover |
本研究の開始時、電気泳動ゲルを撮影・観察するためにイメージャー装置一式の購入を検討していたが、その後学内の研究室から同装置を借りることができるようになったため、購入を中止した。これによって生じた次年度使用額は、翌年度の助成金と併せ、今後の実験で必要となることが予想される遺伝子導入用電気穿孔装置、もしくは安全キャビネットなどの購入に充てることを検討している。
|