2019 Fiscal Year Research-status Report
体圧分布測定装置を用いた生体縦弾性率推定技術の開発
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19K20752
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
村上 知里 日本大学, 理工学部, 助教 (30733753)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 圧力分布 / 褥瘡 / 縦弾性率 / 軟部組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
深部組織に損傷を起こす褥瘡Deep Tissue Injuryでは、筋や脂肪などの軟部組織の厚み情報が重要である。これまで、厚みを取得するために、MRIやX線検査装置、超音波診断装置が用いられてきた。また、近年では、MRIや超音波を用いたエラストグラフィ技術が実用化されたことで、生体弾性率の推定による病変検知が可能になり、褥瘡治療・予防分野での活用が期待されている。しかし、これらの方法は、高額であり専門的な資格が必要である。また、座位計測が困難であり携帯性がないことから、在宅医療での適用が難しい。申請者はこれらの課題を解決するため、体圧分布測定装置と逆問題解法を用いた軟部組織厚み推定技術を開発してきた。本研究では、この軟部組織厚み推定方法を改良し、縦弾性率を同時に推定する技術を開発する。本技術は、安価・簡便・携帯性が高いという特徴から、大病院をはじめ、在宅医療や小規模医療機関での活用が期待できる。前述の目標を達成するため、一年目は「軟部組織の厚み・縦弾性率・圧力の関係のモデリングと縦弾性率推定解法の構築」を行った。 ウレタンゲル材料を生体軟部組織の代用とし、軟部組織の縦弾性率に相当する硬さの試験片を作製した。次に、ゲルなどの材料に関する力学特性試験であるJIS K 6254の圧縮試験方法に従い、変形量と圧力を取得した。その後、取得した物理量の関係をこれまでに開発した軟部組織厚み推定方法で使用したばねモデルに適用し、数式で記述した。この数式を基に、体圧分布測定装置のセンサセルの法線方向に対する皮膚表面から骨表面までの縦弾性率を圧力値から推定する解法を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに体圧分布測定装置で取得した座位時の圧力分布から軟部組織の厚みを推定する技術を開発した。圧力で変形した軟部組織の厚みを推定する際、便宜的に縦弾性率を圧力から推定する。生体における軟部組織の縦弾性率は、非侵襲的な直接計測が困難である。そのため、縦弾性率に関する推定誤差の評価は行っておらず、精度が不明である。直接計測が困難な物理量を間接的に推定するために、本研究では、実験値を考慮した軟部組織のモデルを構築する。具体的には、生体の軟部組織と同程度の硬さを持つゲル試験片およびゲルファントムによる実験を行う。物理法則に従って構築したモデルに実験値由来のパラメータを組み込むことで、モデルの表現範囲と信頼性を保障する。そして、軟部組織のモデルを数式化し、軟部組織の厚み・縦弾性率を同時に推定するアルゴリズムを構築する。この目標を達成するため、一年目は「軟部組織の厚み・縦弾性率・圧力の関係のモデリングと縦弾性率推定解法の構築」を行った。 一種類の硬度のウレタンゲル材料による試験片を作製し、力学特性試験に関する規格であるJIS K 6254に定義された圧縮試験方法に従い、変形量と圧力を取得した。取得した物理量の関係をばねモデルに適用し、数式で記述した。この数式を基に、体圧分布測定装置のセンサセルの法線方向に対する皮膚表面から骨表面までの縦弾性率を圧力値から推定する解法を構築した。一年目は前述の成果をまとめ、第21回日本褥瘡学会学術集会を始めとした2回の学協会発表を行った。また、これまでの成果をまとめた論文を投稿した。研究の進捗から研究成果の発表を重視したため、二年目に予定していた論文の投稿を一年目に繰り上げた。実験装置の選定および購入は二年目に実施する予定である。これらの変更によって、研究の進捗に遅れは生じていないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目は「多層軟部組織における縦弾性率推定方法の開発」を実施する。一年目の検討で使用した試験片およびばねモデルでは、皮膚表面から骨表面までの全組織を一つの縦弾性率で表現している。しかし、実際の軟部組織は異なる縦弾性率を持つ脂肪層や筋層などで構成されている。そのため、ばねモデルと実際の軟部組織との性質的差異は大きい。そこで、異なる縦弾性率が直列に接続された多層ばねモデルを検討する。これを数式化し、多層軟部組織の縦弾性率推定方法を開発する。実験では、異なる硬さを持つゲルを接合し、多層の軟部組織を模したゲル試験片を使用する。一年目と同様の圧縮試験による実験値から数式化し、多層軟部組織の縦弾性率推定アルゴリズムを開発する。 三年目は「隣接するセンシングセル間における相互作用のモデル化」を実施する予定である。軟部組織が変形する際、体圧分布測定装置のセンサセル上の組織は隣接するセル上の組織と相互的に影響を受けるはずである。しかし、一年目および二年目までに使用したばねモデルは、隣接するセル間での相互作用は考慮されていない。そこで、相互作用を表現するため、セル間にせん断弾性率を仮定したばねモデルについて検討する。実験では、圧力センサとひずみセンサを配置したゲルファントムを作製し、せん断弾性率を算出する。実計測が困難な場合、応力解析が可能なソフトウェアANSYSなどを用い、シミュレーションベースで検討を実施する。これらの結果から、隣接するセル間の相互作用を数式化し、せん断弾性率を考慮した縦弾性率推定アルゴリズムを開発する。これまでの軟部組織厚み推定方法と比較して、求めるべき変数が増えるため、逆問題を解くことは困難になる可能性がある。その場合、反復法によるパラメータ推定を検討し、最適値を求めるアルゴリズムを追加する。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、一年目に二年目以降の実験装置の選定および購入、二年目以降に論文の投稿を予定していた。しかし、研究の進捗から研究成果の発表を重視したため、二年目に予定していた論文の投稿を一年目に繰り上げた。実験装置の選定および購入は二年目に実施する予定である。これらの変更によって、研究の進捗に遅れは生じていないと考えている。 三年目の実験に使用予定の圧力センサシステム(購入予定額1,080千円)およびひずみセンサシステム(購入予定額400千円)を含む実験機器は、二年目に選定および購入し、予備実験を行う予定である。また、併せて、試験片作製のための材料や器具などを随時購入する予定である。その他、当初の予定通り、二年目以降に国内外での研究成果発表に関する旅費と論文の投稿料を計上している。
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Research Products
(2 results)