2018 Fiscal Year Annual Research Report
教育組織における実践の制度化と教師-東北地方の進学校を事例として
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16H07394
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ohtsuki City College |
Principal Investigator |
冨田 知世 大月短期大学, 経済科, 助教 (40783725)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2020-03-31
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Keywords | 地方公立進学高校 / 受験 / 教師 / 新制度派組織社会学 / 行為 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、東北地方の複数の公立進学高校を事例と、受験請負指導がどのように制度化され、脱制度化されるのかを、教師の主体的な振る舞いに着目し、明らかにすることである。対象時期は1990年代から2010年代前半とする。受験請負指導とは、生徒の大学受験に対して、教師たちが積極的に責任を背負い、特定大学への合格者数を「成果」の明確な指標とみなすべきとする規範が伴った指導と定義しておく。 2018年度の研究実績は大きく3点に分けることができる。まず、本研究が分析対象としていた現象は、当初、「制度化された教育実践」と概念化し、本研究の課題名にも含めていたが、上述したように、分析対象を「受験請負指導」と概念化してとらえるべきであることが明らかになった。 次に、東北地方A県X高校で「受験請負指導」は制度化されたが、それが「脱制度化」しつつある可能性が前年度(2016年9~12月(研究中断まで))の調査で分かっていたため、2018 年度は「脱制度化」の理論枠組みを精緻に検討するとともに、「脱制度化」からA県X高校で2000年代後半以降に生じてきた受験請負指導の変容過程を分析することができた。本研究の成果は、日本子ども社会学会の紀要、『子ども社会研究』第25号(印刷中)ならびに現在、博士学位を申請中の論文に発表予定である。 最後に、2018年度は新たに東北地方B県の調査を実施した。B県では1990年前後に、公立高校の受験指導重点化施策を実施した元教育長や、2010年前後に高校教育行政に関わっていた人物に対するインタビュー調査、B県の公立進学高校の元教師や現役教師数名に対するインタビュー調査を実施した。インタビューの結果、本研究の当初の仮説(A県のX高校の受験請負指導が他校や他県に普及した)をそのままあてはめることができる部分がある一方で、一部を見直す必要性が生じていることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で記したように、2018年度の調査計画通り、成果発表と調査実施を遂行することができた。ただし、2016年度(研究中断以前)に実施した、A県における教育行政関係者へのインタビュー調査データや、2018年度に実施したB県調査データについて、一部整理や分析が進んでいないものがあるため、「おおむね」と評価した。 加えて、2018年度に新たに調査を開始した東北地方B県について、当初の予想に反する結果も得られている。まず、当初の仮説(受験請負指導は普及していく)に当てはまる現象としては、教師インタビュー調査から分かったことだが、1990年代にB県の公立進学高校においても受験指導に対する熱が徐々に高まっていた様子と、それがB県都市部にある公立進学高校から他校に広がっていった様子などである。一方で、教育行政関係者へのインタビューで明らかになったこととして、B県にはA県とは異なった受験指導重点化施策導入の論理が語られており、A県の施策の影響関係は当初の予想に反してそれほど語られなかった。したがって、本研究の理論枠組みや仮説を一部修正していく必要性が出てきたため、本研究の進捗状況を、「進展」はしているが、「おおむね」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、第一に、昨年度に実施した調査データの整理と分析を行う。2018年度は、東北地方B県の調査を実施したが、「現在までの進捗状況」で述べた通り、本研究の仮説(A県のX高校の受験請負指導が他校や他県に普及した)をそのままあてはめることができる部分がある一方で、一部を見直す必要性が生じている。そこで第二に、学歴社会や受験競争、受験指導に関する先行研究レビューを丹念に行い、理論枠組みの再構築を行うことにしたい。第三に、当初は東北地方の複数県を調査予定としていたが、受験指導重点化施策導入の論理がA県とは異なるB県を対象としたインテンシブな調査を本年度は実施していきたいと考えている。B県の受験指導重点化施策の決定過程における議論等を整理するために、B県の行政資料を収集し、分析を進める。それに伴い、行政資料調査のための出張旅費の支出を予定している。第四に、B県の「トップ」校、「2番手」校という位置づけを与えられている公立進学高校教師へのインタビュー調査を実施する。すでに2018年度の調査において、「トップ校」で受験請負指導が1990年以降に出現した可能性、それが地域の2番手校に普及した可能性があることがわかっている。よって、これら2校の学校史等の資料を収集するとともに、現役教師・元教師へのインタビューを実施し、受験請負指導の変遷を明らかにしていく。第五に、2016年度(研究中断以前)に実施したA県の調査において、教育行政関係者へ行った探究科設置までの経緯を質問したインタビューデータが未分析となっている。このデータの分析と成果発表を2019年9月に開催される日本教育社会学会で行う予定にしている。
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