2018 Fiscal Year Annual Research Report
タイ現代君主制の維持・発展における王妃と宮中女性の役割
Project/Area Number |
17H06773
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
櫻田 智恵 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任助教 (90808304)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | タイ / 君主制 / イメージ戦略 / プーミポン国王 / 王妃 / 宮中女性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、前タイ国王プーミポン(在位1946~2016 年)の絶大な権威形成において、王妃や宮中女性が果たした役割を明らかにすることを目指すものである。具体的には、①メディア戦略における王妃の役割、②王妃や女官の姻戚・交友関係による王室と政財界との紐帯について分析するものである。 初年度は、主に①の王妃の役割について、タイ国内外の新聞記事や、ニュース映画の映像の調査を行った。1950年~60年代半ばまで、シリキット王妃はメディアの全面に登場するが、この時点では「国母」という語りはみられず、「若く美しい」という点に重点が置かれた語りが成される。タイ国内での扱いはあまり大きくなく、むしろ海外における報道で王妃に注目が集まっている。タイ国内において扱いが大きくなるのは、プーミポン国王の地方行幸回数が大幅に増加する1975年以降であり、行幸における国王との役割分担から登場した語りであることが明らかになった。国王との役割分担とは、国王が地勢の調査を行い、大規模な王室プロジェクトを指揮する強い「父」として行動する一方で、王妃が子どもや女性などに対し、物品の下賜や仕事の視察などを通して国民の生活ぶりに細部まで気を配る優しい「母」という役割分担である。こうした役割分担のイメージを定着させる施策として、1976年に母の日を王妃の誕生日に変更するなどしたことを明らかにした。 ②の女官の姻戚・交友関係については、特に高位の女官の人事を整理すると共に、その姻戚関係を明らかにし、翌年に向けた基礎データの整理を行った。ここから、特に女官の人事が王室と政財界の紐帯形成に影響を与えるのが1970年代後半以降であろうという見通しが立った。その成果の一部として、イスラーム教徒と王室の関係性を考察し、共著論文一編の中に盛り込んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
タイにおける不敬罪の強化等により、当初インタビュー予定だった元宮中職員らから、インタビューをためらう声があがった。また、新国王即位の前後に王室秘書事務所で大幅な人事異動があったが、特に2017年10月に執り行われた前国王の葬儀以降、再び人事異動が行われたことで、一部のインタビュイーの変更を余儀なくされた。 また、首相府資料室、公文書館などが、外国人だけでなく、タイ人も閲覧不可能になるなど、資料公開の状況も大きく変化した。 これらの事情から、一部の資料調査やインタビューが延期となり、現地調査の実施を急遽延期するなど、調査予定に大幅な変更が生じた。そのため、再度インタビューなどに関する調整し直すなど、時間を要したため、当初の予定よりも多少進捗状況に遅れが出ている。 なお、インタビューについては次年度に向けて再調整が完了しており、タイだけでなく、日本での実施や、もしくはインターネット通話等の使用を検討しており、インタビュイーの安全に配慮した形で調査を行うこととしている。資料についても、公開状況が改善し次第新たな資料を収集する他、すでに所有する資料の精査をさらにすすめる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、引き続き、①イメージ戦略における王妃の役割について、研究成果の発表を行う。また、1976年に「母の日」が王妃の誕生日になる前後において、「母の日」の祝賀行事やイベントに変化があったと考えられる。新聞や雑誌などの記事における「母の日」の扱いがどのように変化したのかについて、分析を行う。 同時に、映像の分析では、テレビ番組の編成表に関する調査を行う。タイにおけるテレビの本格的な普及は1980年代に入ってからであるが、1970年代後半にはすでに首都圏や地方の富裕層でテレビが普及し始めた。今年度の調査から、王室に関するニュース映画は1972年を最後に制作が終了し、その後テレビに移行したことを明らかになったが、実際にテレビでどのような報道が成されたのかを分析する必要がある。そこで今後は、テレビ番組の編成表を収集し、現在放送される20時からの王室報道番組の誕生と、その放送内容の分析を行う。 また、②王妃や女官の姻戚・交友関係による王室と政財界との紐帯についての分析をすすめる。女官の人事については、これまでのインタビューから、1980年前後に、女官の採用形態が、変化したことがわかってきた。もともと王室に仕えた家系であることが優先された時代から、国王や王妃の直接の声がけによってリクルートされたり、大学からの推薦による参内などが増加する時代に変化するのである。だとすれば、そもそも女官になるための門戸が広がり、王室に関係する人々が急増したと考えられる。この点について、女官の人事やその採用方法などの調査を行い、明らかにしたい。 加えて、各女官の姻戚・交友関係だけでなく、女官の夫の経歴、王室への寄進状況などについての調査を行い、王室と政財界の紐帯の形成過程を明らかにすることを目指す。
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