2019 Fiscal Year Research-status Report
タイ現代君主制の維持・発展における王妃と宮中女性の役割
Project/Area Number |
19K20758
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
櫻田 智恵 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任助教 (90808304)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | タイ / 君主制 / ニュース映画 / イメージ戦略 / 王妃 / 宮中女性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、前タイ国王プーミポン(在位1946~2016 年)の絶大な権威形成において、王妃や宮中女性が果たした役割を明らかにすることを目指すものである。 具体的には、①メディア戦略における王妃の役割、②王妃や女官の姻戚・交友関係による王室と政財界との紐帯について分析するものである。 ①のイメージ戦略に関しては、当初テレビ番組表の調査・分析を行う予定であったが、1950年~1962年までの間に主に制作されたニュース映画「陛下の映画」のフィルムの一部と、その上映時の広告チラシや新聞広告、加えて、全国に巡行上映した際の収入などの資料を発見したため、その分析を行った。王妃に特に焦点があたるのは、1960年代に実施された外国訪問の様子においてである。スーツと軍服が主なファッションである国王に対し、王妃の様々な衣装の美しさが特に報道されている。また、皇太子をはじめとする子どもたちの出産を扱う映画においては、子どもを自らの手で育てる王妃の姿が盛んに報道され、国王はむしろ、その様子を撮影する側であるという、現代的な「普通の」家庭としての姿が描かれた。 こうした「陛下の映画」は、学校や病院などの施設で上映されたが、その収益がそのまま下賜されることから、地方ではフィルムの奪い合いともいうべき状況が発生していたことも明らかになった。 ②の女官の姻戚・交友関係については、1950年代や60年代の女官や側近には、王族や、代々宮中に仕える人々が多かったのに対し、1970年代半ばころからは大学を卒業した学生などをはじめ、王妃や国王自らがリクルートした若い職員が参内してきた。この若い職員は、新興財閥や軍幹部の子息などと婚姻関係を結ぶことが多いことを明らかにした。また、婚姻関係の形成前後では、王室への寄付が増加する傾向があるが、大きく変化するわけではないことも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が対象とする王妃や宮中女性が、プーミポン前国王の権威形成・維持に果たした役割について、1950年~60年代と、70年代以降では変化がみられることが明らかになった。まず、王妃が「国母」として表象されるようになるのは、70年代以降であり、それ以前は主に海外メディアからの注目度が高かった。しかしながら、1950年代から、皇太子らの「母」としての姿はニュース映画をはじめとする映像メディアで大きく扱われており、これが素地となって70年代以降の「国母」としての姿に継承されていったと考えられる。 こうしたイメージ戦略に関する分析結果は、2019年度末に提出した博士論文『「国王神話」の形成過程:タイ国王の行幸と「陛下の映画」の役割』内で執筆し、発表した。 次に、女官の人事と、それに伴う姻戚関係についても、70年代以降に変化がみられることが明らかになった。プーミポン国王が即位する以前から続く人脈を基としていた1950年代~60年代に対し、70年代以降は広く様々な社会階層の人々が宮中に参内するようになる。このような女官の人事を明らかにした研究はこれまでになく、本研究によって示された新しい知見である。 女官の人事に関する分析結果は、投稿論文としてまとめておらず、これをまとめて論文とすることを今後の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究費は、本年で終了の予定であったが、新型コロナウイルスの影響を受けて、国内での資料調査が複数中止となった。そのため、一部の研究資金を繰り越し、調査を継続することとした。 今後は、女官の人事に関する調査結果を論文にまとめることを第一の目標とする。 同時に1970年代をターニングポイントとし、国王と王妃の表象方法に変化がみられること、また女官の人事形態にも変化がある。この点について、国王が初めて政治に介入して政治混乱をおさめた1973年の「10月14日の政変」や1976年の「10月6日の政変」のとの相関などについて分析を進めることを目指している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で、国内で予定していた資料調査の実施が不可能となり、そのために確保していた旅費等の費用を、次年度に繰り越した。
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