2018 Fiscal Year Annual Research Report
フランス現象学を背景とした後期レヴィナスの人間観の歴史的・体系的研究
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18H05555
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平岡 紘 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (00823379)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | レヴィナス / 現象学 / フランス哲学 / 人間主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、E・レヴィナスが1960年代後半以降に展開する「他者の人間主義」の思想の内実と独自性を明らかにすることを目的として、(1)人間をめぐる後期レヴィナスの思索を体系的に分析すること、そして同時に(2)1960年代のフランス現象学者たちの人間観の布置を描き、そこにレヴィナスの人間観を位置づけること、この二点を方法の柱として、「自然と人間の関係」と人間固有の特性としての「自己意識」の二点について、後期レヴィナスの人間観を研究するものである。 本年度は、研究計画どおり「自然と人間の関係」を主題とする研究から開始した。レヴィナスの論文集『実存の発見』および『他者のヒューマニズム』やM・デュフレンヌ『ア・プリオリの概念』『人間の復権』の読解・検討を行い、その結果、後期レヴィナスが自然と存在の結びつきを強調する背景に、主観性を「存在なき一」として提示する思考と密接に連関していることを明らかにした。 本年度途中より、当初の計画では来年度の研究主題としていた、「自己意識」をめぐるレヴィナスの思考の分析にも取り掛かった。その成果の一部として、『現象学年報』第34号に学術論文「引き裂かれた現在――レヴィナスのフッサール『内的時間意識』の解釈をめぐって――」を発表した。本論文は、起源的な自己意識の分析でもあるフッサール時間論をレヴィナスがどのように読解したかを分析し、主観性の固有性たる起源的な自己関係がレヴィナスにおいて、隔たりにおける自己との一致であることを明らかにした。この分析を深化させた学術論文を『レヴィナス研究』に投稿し、来年度に公刊される予定となっている。 また、来年度に公刊される予定であるフランス哲学・思想に関する事典に、レヴィナスおよびフランス哲学についての項目の執筆を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では来年度に研究を行うことにしていた主題に本年度途中から取り掛かり始めることができた点、学術雑誌での論文の発表を行うことができた点から、当初の計画以上に進展していると判断することができる。 とりわけ、人間固有の性格である自己意識をめぐるレヴィナスの思考の内実と独自性を明らかにした学術論文が『現象学年報』第34号に発表されたこと、そこで行った分析を深化させた学術論文が『レヴィナス研究』に来年度に公刊される予定となっていることが評価される。 また、来年度に公刊される予定であるフランス哲学・思想に関する事典に、レヴィナスおよびフランス哲学についての項目の執筆を行ったことにより、今後本研究に深みと広がりがもたらされることが期待される。 また、アウトリーチ活動としてフランス哲学についてのコラムを執筆した点も、上記の判断の根拠となる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、今年度の研究の進展に伴い、「自己意識」についてのレヴィナスの思考およびフランス現象学者たちの思考の読解・検討をさらに進めていく。後期レヴィナスは人間固有の特性としての「自己」に関して、「私」の自己同一化に先立って、他者から呼びかけられる受動性において成立する「対格の自己se」という概念を導入する。この概念の内実を明らかにすることを目的として、「私」と「自己」をめぐる後期レヴィナスの思索を考察する。その際、以下の二点を方法上の柱とする。 (1)上記のように後期レヴィナスは「自己」を「私」よりも構造的に先立つものとし、しかも「自己」を受動性においてとらえるが、このことは、どのような内実を有し、また人間の倫理的なあり様を思考する上でどのような意義を有するのかを明らかにする。 (2)レヴィナスが後期著作において言及し高く評価している、同時期に活躍していたフランスの現象学者も、「私」に先立つ「自己」を提示することを自らの哲学的思索の課題としていた。そこでデュフレンヌ、ドゥロム、アンリが展開した「自己」をめぐる思索を読解し、これらフランス現象学者たちの自己論の布置を描きとり、そこに自己をめぐるレヴィナスの思索を位置づけ、その独自性を明らかにする。レヴィナスによるこれらの著作への言及の意義はまだ本格的に検討されておらず、またデュフレンヌおよびドゥロムについてはその思索自体も十分に研究が進んでいないため、特に丁寧に読解を行う。
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Remarks |
アウトリーチ活動として、健康寿命の延伸に寄与することを目的とするNPO法人「元気・百歳」の機関誌『奈良健康倶楽部』に、哲学についてのコラム「自由と自分らしさ」(vol. 6, 2018年10月, p. 6)および「心はどこにあるのか」(vol. 7, 2019年4月, p. 6)を執筆した(依頼あり)。
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