2020 Fiscal Year Research-status Report
ピアノ・レッスンに関する質的研究:ゴールドベルク山根美代子の音楽的語彙を例に
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19K20770
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
後藤 友香理 静岡大学, 教育学部, 講師 (10732951)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | レッスン / ピアノ / 質的研究 / 専門的技能 / わざ言語 / 楽譜 / 演奏解釈 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までの研究により、研究対象者であるゴールドベルク山根美代子(以下山根)のレッスンの特質や弟子たちへ与えた影響についてはある程度明らかになった。しかし本研究で目指しているのは個別の事例を挙げてその特徴を示すだけでなく、レッスンそのものの教授プロセスを明らかにすることであり、より包括的なモデルを示すことである。そのため、今年度は研究の見直しを行い、まずは①山根の音楽解釈を演奏史の中で捉え直した。さらに、②他分野の身体技能の教授プロセスについての文献調査を行った。 ①については、これまでの分析で明らかになった山根の音楽解釈を、過去の音楽理論書の記述に照らし合わせ、山根の音楽観が西洋音楽の演奏史の中でどのように位置づけられるか検討した。その結果、演奏を言葉や弁論と同義と捉え、楽譜を体系立てて読むことを重視していた山根の演奏観は、バロック時代の修辞学的な演奏習慣に則っている可能性が明らかになった。この成果については、第18回日本音楽表現学会大会で口頭発表を行った。 専門家を対象としたレッスン研究の例はまだ少ないが、スポーツや伝統芸道など他の身体技能では、人類学や認知科学的な側面から研究から進められている。②では、他分野の教授プロセスについてどのような手法が採られているのか調査した。どの程度その枠組みを本研究において援用することができるのかはまだ検討中であるが、来年度に研究をまとめ、ピアノ・レッスンの教授における包括的なモデルを示したい。 なお、本研究と直接的な関係は薄いが、本研究で使用している質的分析の手法を応用した研究成果として、第12回日本音楽教育メディア学会研究会にて口頭発表を行ったことを付け加えておく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
ピアノ・レッスンにおける弟子の理解プロセスを知るため、インタビューを予定していたがコロナウィルスの影響により出張が困難になったため、ほとんど行うことができなかった。また、コロナ禍による勤務先での様々な対応も重なり、十分な研究時間を確保することも難しかった。 他分野も含めた多くの先行研究を参照する中で、研究方向の見直しの必要性にも迫られた。そのため、研究期間を1年延長し、個別の事例研究に留まらずより包括的な視点から西洋音楽の教授プロセスを明らかにすることを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究において、ピアノ・レッスンにおける弟子の理解プロセスに関するインタビューは重要な調査の一つであるため、今後は適宜オンラインでのインタビューを取り入れつつ進める。 また、研究の新たな方向性については来年度の早いうちに決定する予定である。ピアノに代表される西洋音楽と、その他の伝統音楽の違いの一つは「楽譜」の存在にあると思われる。明確な楽譜を持たない伝統音楽の教授プロセスがこれまで人類学や認知科学的な側面から明らかにされつつあるのに対し、西洋音楽における解釈や教授の問題がクラシック音楽の狭い世界の中で常に議論されがちなのは、西洋音楽における「楽譜」が、演奏行為に絶対的な拘束力を持つと信じられているからではないだろうか。 しかし、これまでの研究で、演奏者にとって「楽譜」はあくまで演奏の基本線を示すものでしかなく、「楽譜を読む」という行為が、時に楽譜から逸脱することや、楽譜に記されていないことまでも補う行為であることを確認してきた。 そこで、西洋音楽における演奏解釈と楽譜の関係を今一度整理した上で、他ジャンルの身体技能に対するアプローチを援用し、より包括的なモデルを示す。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により出張に行くことができず、旅費を使うことがなかった。聞き取り調査を行うことができなかったため、当初予定していたテープ起こしの委託量も発生しなかった。 来年度はオンラインでの聞き取り調査を予定しているため、引き続き旅費として使用する額は少ないと思われるが、研究方法の見直しにより文献の購入額が増えると考えられるため、その購入に充てたい。
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