2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18H05562
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福谷 彬 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (40826004)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 朱子 / 道学 / 綱目 / 資治通鑑綱目 / 朱熹 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、収集した諸史料を基礎に、多面的な考察を加え、『綱目』に関わる論考一本を含む著書『南宋道学の展開』を京都大学学術出版会より出版し、また新たに論考を執筆し学術誌に投稿したほか、学術シンポジウムを共催し大いに知見を得ることができた。 まず、「『通鑑綱目』研究の現状と『綱目』初稿の意義 --呂祖謙『大事記』に注目して--」(『東方學報』九十四号、2019年)を発表した。本論考では、収集した近年の国内外の『通鑑綱目』研究の成果を整理・総合し、議論となる点を明らかにした。その結果浮かび上がった点は、これまでしばしば偽作説が説かれていた『綱目』の「凡例」については文献学的見地からも、内容から見ても、朱子の著述ではないと断定するだけの決定的な根拠はない、ということである。本稿は、そのことを踏まえつつ、更にこれまで注目されなかった呂祖謙の著述である『大事記』を利用し、『大事記』に引用される『綱目』の引用部分は、朱子が執筆した『綱目』の草稿段階のテクストであると考えられることを論じた。またそれらの考察を踏まえ、『綱目』の「凡例」の執筆時期を1186~1190年と推定した。 次に、京都大学人文科学研究所の古勝隆一准教授と福岡教育大学の竹元規人准教授と学術シンポジウム『文史哲―文学と哲学から見た『文史通義』―』(2018年2月19日開催)を共催した。シンポジウムでは、浙江大学人文学院副教授の林暁光先生をお招きして、歴史学の方法論の沿革に対して分析的な視点を有する清代の著作である『文史通義』に関してご講演頂き、また来場の研究者による活発な討論を通じて、従来の朱子学研究としての枠組みに捉われない『綱目』研究に対する新たな指針を獲得することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
具体的な論考として活字化できたことに加え、学術シンポジウムを共催して広い範囲の専門家から知見を得たことで、次年度への研究の発展が見込める状況にある。そのため「おおむね順調に進展している」と認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の進展の中で、朱子の『綱目』執筆の背景には、蜀漢の丞相・諸葛亮に対する南宋当時の高い評価が関わっていることがわかった。諸葛亮を理想の臣下として描出しようとする諸葛亮崇拝の傾向は、陳寿『三國志』の段階で既に存在し、習鑿歯や裴松之もその傾向を増幅させる方向で諸葛亮故事を集めている。私たちが目にする正史『三國志』「諸葛亮傳」とその注とは長期に渉って誇張・増幅されてきた諸葛亮崇拝の産物である。南宋時代では朱子が顕彰する以前から諸葛亮の評価が急上昇するが、それはどのような事情が存在し、その文脈の中で『綱目』の執筆はいかなる意味があるのか。 また、朱子とほぼ同時期に諸葛亮を顕彰する文章を残す道学者は多く存在したが、これらの活動は、当時の宋金抗争時期においていかなる意味があり、また彼らの諸葛亮評価の違いにはどのような意義があったのか。そして、朱子は時に諸葛亮を道統の系譜上の人物に並べて記述することさえあったが、諸葛亮の存在は朱子学の思想体系の中でいかなる存在であったのか。以上のような『綱目』執筆の動機としての諸葛亮の存在の重要性に対する考察は今後の課題としたい。
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Research Products
(2 results)