2020 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19K20772
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福谷 彬 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (40826004)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 綱目 / 朱熹 / 道統 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に発表した「『通鑑綱目』研究の現状と『綱目』初稿の意義 --呂祖謙『大事記』に注目して--」(『東方學報』九十四号、2019年)での成果や、学術シンポジウム『文史哲―文学と哲学から見た『文史通義』―』で得られた歴史学の方法論に対する自覚的な反省という視点を踏まえ、今年度は以下のような研究を推進した。 蜀漢正統論を特色とする朱熹の『通鑑綱目』成立には、国土の北半分を異民族に奪われるという危機の時代という背景があるが、従来のように『通鑑綱目』のみを考察対象とするのでは朱熹の正統論の持つ歴史的な意義を解明することが難しいことが次第にわかってきた。 朱熹と同時期の広義の道学者たちは、軌を一にするように、蜀漢正統論と諸葛亮礼賛の文章を残しており、朱熹の『通鑑綱目』もそうした一連の流れの中で考察すべきであることが分かってきた。 特に、湖南学の張南軒は『諸葛武侯伝』という諸葛亮の伝記を残しているが、張南軒が鼓吹する諸葛亮の「漢賊並び立たず」とする精神こそが、蜀漢正統論の淵源であり、張南軒が特筆大書し、また朱熹へと受け継がれた点であるということが判明した。 また、朱熹は諸葛亮の「成敗利鈍」を顧みないとする精神を、孟子や董仲舒の「義利の弁」の思想を継承していると見なし、諸葛亮を「道統」上の人物としてすら位置づけようとしていたことには十分注意せねばならない。政権の正統である「正統」と思想の正統である「道統」とは、朱熹においては完全に別個に扱っていると指摘されてきた。しかし、蜀漢正統論の精神的根源が諸葛亮であり、朱熹が諸葛亮が道統上の人物として位置づけようとする記述を一部に残していることを考えれば、後世混同される傾向のある道統論と正統論とは、朱熹の段階ですでに、接近していることを示していると考えられる。以上から、『通鑑綱目』と正統論に関して新たな視角が得られたと考える。
|