2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18H05572
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
中西 麻一子 佛教大学, 総合研究所, 特別研究員 (70823623)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | インド美術 / 仏教美術 / 仏伝図 / 南インド / カナガナハッリ / インド仏教史 / 仏伝 / 仏教説話 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は研究期間内に、カナガナハッリ大塔から出土した考古学的出土品について(1)実地調査による実測と資料収集、(2)新出した出土品の資料整理ならびに基礎史料の更新、(3)図像表現の文献資料への比定を行う。今年度は、特に(1)と(3)についての研究を推進した。 (1)については、事前にインド考古調査局管轄のカルナータカ州支局ダルワッド・サークルよりカナガナハッリ大塔の撮影・掲載許可を得たため、十分な調査を現地で行うことが出来た。実地調査では、カナガナハッリ大塔を構成する各部材(上段・下段レリーフ石板、動物装飾帯、仏座像、アーヤカ柱、仏足石板、コーニス(軒)など)の実測と配置場所を記録した。また、調査の過程で未公刊の断片や碑文が多量に見つかったため、それらの写真撮影も同時に行った。その他、カナガナハッリ大塔と同時代に造営された仏教遺跡の作例調査のため、ニューデリー国立博物館、テランガーナ州立考古学博物館、グルバルガ博物館、チェンナイ州立博物館にて資料収集を行った。 (3)カナガナハッリ大塔から出土した浮彫のうち、仏伝の一場面を描いたスジャーターの乳粥供養図を取り上げ、その図像表現を考察した。同主題はカナガナハッリ大塔の上段レリーフ石板と東門アーヤカ基台上の仏伝コーニスの2箇所に彫り出されている。乳粥供養説話が説かれる文献資料(サンスクリット文献・パーリ文献・漢訳文献)の精査と、図像資料(サーンチー第1塔南門、アマラーヴァティー、ゴーリ、ナーガールジュナコンダ、サールナート、アジャンター第16窟)の分析を行い、両者を比較検討する研究方法に基づいて、インド仏教史・美術史上の変遷過程における同主題の位置付けを行った。研究成果は「カナガナハッリ大塔におけるスジャーターの乳粥供養図について」と題した論文として今年度中に『アジア仏教美術論集 南アジアⅠ(マウリヤ朝~グプタ朝)』へ投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、カナガナハッリ大塔での実地調査が計画通りに進んだため、おおむね順調に研究を進めることができた。事前に把握していたインド考古調査局による発掘報告書に未掲載の考古学的出土品について、実際に現地で調査を実施することで予想を上回る出土品や碑文が新たに見つかり、それらの実測・配置記録と撮影ができたことは、カナガナハッリ大塔の基礎資料を更新するにあたり非常に大きな成果であった。また、テランガーナ州立考古学博物館、グルバルガ博物館の調査では、未公刊の作例やカナガナハッリ大塔から移設された出土品と認められる作例を収集することができた。 先述のとおり、カナガナハッリ大塔から出土した仏伝図の図像学的特徴を明らかにするため、今年度はスジャーターの乳粥供養図に焦点を絞り、その図像表現を考察した。上段レリーフ石板に描かれる同主題は、仏伝文学の段階になって初めて登場する村娘スジャーターのエピソードが、紀元後2世紀には南インドまで伝播していたことを示す初作例であり、また仏伝文学の作成と仏塔の周囲で仏伝場面の制作が行なわれることに共通の基盤があることを具体的に提示することのできる重要な作例であることを指摘できた。
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Strategy for Future Research Activity |
まずはじめに、カナガナハッリ大塔の実地調査によって得られた実測・配置記録について(2)の資料整理を遂行する。実測記録は、図面作成ソフト(CAD Architecture)に取り込み、カナガナハッリ大塔の各部材ごとの配置図を配置記録に基づいて作成する。写真データは、画像処理ソフト(フォトショップ・イラストレーター)による補正作業を行うことで整理し、カタログ化する。この作業過程で見つかった調査不十分な部分を補うために、再度カナガナハッリ大塔への実地調査を予定している。作成した配置図の修正作業と、新出した出土品と碑文のより詳細な記録を取ることにつとめたい。 (3)については、カナガナハッリ大塔から出土した仏伝図のうち、成道図を取り上げてその図像学的特徴を考察する。成道について説かれる文献資料を収集し、それら諸文献を初期経典、仏伝文学、律蔵に区分したうえで、成道した場所とその情景がどのように併記されているのかを精査する。それと同時に成道場面を描いた図像資料を収集整理し、他の成道図と比較することでカナガナハッリ大塔に伝承される同主題の図像表現を分析する。
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Research Products
(2 results)