2018 Fiscal Year Annual Research Report
性質・状態の意味を表す日本語動詞「スル」の用法と英語の対応表現に関する研究
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18H05580
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大神 雄一郎 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 助教 (80826339)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 状態・性質を表す「スル」構文 / 認知的意味 / 知覚・感覚・体感 / メタファー / 日英対照 / 動詞の意味と構文の意味 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度には当初の研究計画に従い、考察対象とする言語表現の事例を広く収集したうえで、その分析と考察を進めた。この結果として、問題となる表現に関する先行研究が分析・観察の対象としてこなかったタイプの事例を豊富に収集することができた。具体的には、言及対象となる事物に対し事態の経験者である表現主体の知覚的・体感的評価を通じて捉えられた状態や性質を描写する表現、また、無生物である物体の部分についてメタファー的言語化を通じて言い表す表現などに関し、実例を中心に多様な例が得られている。上に挙げたようなタイプの表現は、先行研究の知見においては不適格な表現になることが予測されるものであるが、実際のところ特定の条件においてはこうした表現も数多く産出されるという実態が捉えられた。この発見をもとに、考察対象となる表現の基本的性質と成立基盤について、主に認知言語学の知見を参照し、理論的観点から考察を行った。これを通じ、動詞「スル」によって事物の状態・性質に関する意味を表す「XはYをしている」形式の表現の成り立ちは、事物に対する経験者の「捉え方」に大きく影響されるものであるという見通しが得られた。また、英語における対応表現との対照、構文論的観点からの考察にも取り掛かっている。これらの成果については、国内外の関連学会における複数の口頭発表にて公開しており、合わせて現在はそれらに基づく学術論文の投稿および投稿準備を進めている。現在までに得られた成果を土台とし、続く研究においては、考察対象となる言語表現の実態と性質について認知的観点から説明づける試みを加速させる。これに加えて、英語を中心とする異言語との対照研究を進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度には、考察対象とする言語表現の事例を広く収集し、その実態と基本的性質について掘り下げた検討を行うことを取り組みの軸とした。現時点において、従来の研究においては注目を集めてこなかったタイプの事例が豊富に得られ、また、このことが理論的観点からの考察にも着実につながっている。これにより、問題となる言語表現についてさらに見通しを深めることが期待される状況である。このため、当初に予定された計画の推進状況は順調であると言える。研究開始時に計画していた被験者調査については現在までに実施が行えていないが、これは研究を進める中で当初予定していた以上に興味深い事例や現象が見つかり、調査計画を改めて検討のうえ、より効果的な調査をデザインすることが有益と考えられたためである。こうした事情から、被験者調査については研究2年目の年度において実施を予定し、具体的に準備を進めている。英語表現との対照については研究初年度の終盤にすでに着手しており、現在はその初期的成果の公開に向け取り組みを進めている。この観点からの研究は本年度に展開することを予定しており、さらなる発展が見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究初年度の成果をふまえ、今後は①さらなる言語事例の収集および考察対象とする言語表現の適格性に関する被験者調査、②主に認知言語学の観点による理論的考察、そして③異言語における対応表現との対照、というそれぞれの取り組みを進める。これにより、事物の状態や性質に関する意味を表す「スル」の表現にどのような広がりが認められるか、また、この言語表現について人間の認知との兼ね合いからいかなる理論的説明が与えられるか、ということを検討し、問題となる言語現象を通じて日本語の特徴の一端を明らかにすることを目指す。なお、前年度に得られた研究成果については、すでに学術論文として査読を受けているもの、刊行を控えているものが数件あるが、引き続き国内外の学会等で研究知見の公開を進めつつ、関連する分野の研究者との意見交換などに結び付ける。
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Research Products
(4 results)