2019 Fiscal Year Research-status Report
現代中国の文芸一家――王嘯平、茹志鵑、王安憶の文学テクストの総合的検討
Project/Area Number |
19K20791
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
松村 志乃 神戸市外国語大学, 外国学研究所, 客員研究員 (40812756)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 馬華文学 / 中国当代文学 / 王嘯平 / 王安憶 / 茹志鵑 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は女性作家の茹志鵑(1925‐98)、王安憶(1954‐)ならびに茹の夫でシンガポール華人の劇作家王嘯平(1919‐2003)という、現代中国の歴史に翻弄されながら生きた文芸一家のテクストを対象に、中国革命から今日に至る中国の文化と社会を考察することを目的としている。 本研究の方法のひとつが、1940年代から2000年代にかけて執筆された茹志鵑、王嘯平、王安憶といった文芸一家のテクストをそれぞれの国家、歴史、生活の価値観をめぐる対話と応答と仮定し、各人のテクストを双方向的に読み解いてゆこうとするものであった。2019年度は、主にこの方面の研究が成果を上げた。 まず、東京で行われた日本中国当代文学研究会主催の国際シンポジウム「莫言研究日中研究者東京シンポジウム」において、「文芸之家中的王嘯平--従王安憶和茹志鵑的角度出発」という中国語で報告を行った。シンポジウムの席では、茹志鵑、王安憶の研究は多く行われているが、王嘯平というほぼ無名のシンガポール出身の文学者を含めて家族という視点による研究が新鮮であると、中国の研究者から高い評価を得た。その報告の成果として、論文を執筆し、モダニズム研究会刊行『中国モダニズム研究会論集(仮題)』(未刊行)に投稿した。本論文は受理され、論文集は2020年度内に出版される見込みである。また年度末には翻訳集「中国が描く日本との戦争(仮題)」に、王嘯平と王安憶の散文を翻訳して寄稿し、2020年度内に出版される見込みとなっている。これは日本初の王嘯平文学作品の翻訳となる。それによって、シンガポールと中国というふたつの地域を越境しながら文学者として生きた王嘯平をより広く世に問うことができるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該研究は、王嘯平という英領マラヤ(現シンガポール)と中華人民共和国を越境する形で生きた作家を、二つの角度から研究するものである。ひとつが、中華人民共和国の著名作家である妻茹志鵑と娘王安憶の視点から、文芸一家における王嘯平の位置づけを考えるものである。もうひとつは、現代の馬華文学(マレーシア華人文学、広義にシンガポール華人文学を含む)において、王嘯平がいかに位置づけられるかを考察するものであった。 ひとつ目の研究において、申請者は王安憶と茹志鵑に関する研究の蓄積があったほか、比較的容易入手できた王嘯平の自伝的長編三部作から考察が可能であった。研究論文を執筆し、論文集に寄稿したが、種々の理由から出版が遅れ、研究の社会的還元には至っていない。 もうひとつの研究は、馬華文学における位置づけの問題である。こちらは馬華文学の資料を読み進めつつ、現地の研究者と交流の上進める予定であった。しかしながら、2019年度の夏は体調を崩し、2020年2月に渡航予定であったが、コロナウイルスの問題で延期せざるを得なかった。また2020年度より新しく近畿大学に赴任することになったが、その準備等に追われ、研究時間を十分にとることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の視点のひとつが、王安憶、茹志鵑と言った文学者の家人の文学を視野に入れながら、従来研究されてこなかった王嘯平という戦中戦後を生きた英領マラヤ出身の作家の研究の基礎を構築し、その精神的営為を「華語語系文学」や「馬華文学」といったタームの中で位置づけようとするものである。 当初劇作家・演出家王嘯平の脚本、随筆、小説ならびに当時の話劇上演に関する資料を、シンガポールや上海に出向き、可能な限り収集する予定であったが、注目されてこなかった越境作家であるがゆえに、思いがけず現地図書館所収率が低い。図書館などで収集できるものは、コロナウイルスの影響がなくなりしだい出向き、収集を進める。また古書で入手できるものは、できる限りの手段を使って購入したい。収集を行うことによって、いまだ不明の部分も多い大陸に渡る以前の王嘯平の経歴なども整理し、王嘯平という文学者の全貌に迫る所存である。 また現行の「馬華文学」議論やアメリカでのサイノフォンの議論に関しても、資料は収集できたが、通読検討するに至っていない者が多くある。今後は中国大陸のみならず、東南アジアやアメリカの研究者、文学者との交流を進めながら、こうした最先端の議論に関する理解を深め、そうした全体像の中で、大陸の文芸一家の中で無名のまま生きた王嘯平という文学者の位置づけを検討したい。
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Causes of Carryover |
当初2020年の2月から3月にかけての日程で出張をする予定であった。しかし、コロナウイルスの影響で中華圏には早々に渡航できなくなり、出張を断念せざるを得なくなった。そこで次年度にシンガポールへ赴き再度調査を行い、研究をまとめたいと考えている。
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