2019 Fiscal Year Research-status Report
和歌を用いた平安期『源氏物語』享受の解明に関する研究
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19K20799
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Shujitsu University |
Principal Investigator |
瓦井 裕子 就実大学, 人文科学部, 講師 (20823967)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 源氏物語 / 源氏物語享受 / 和歌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、『源氏物語』の最初期の享受の様相があらわれているかと考えられてきた『為信集』を検討し、成立年代について新説を提示して、その文学史的位置づけを行った。また、『源氏物語』諸本間の異同に配慮して『源氏物語』摂取の考察を行った。具体的には以下の2点である。
1.『為信集』の成立年代について検討を加え、この家集の成立が13世紀前半である可能性を示した。この家集を従来考えられてきたような平安中期の成立と見るのではなく、院政期の物語享受という広い観点の中で捉えられるべき作品であることを述べた。成果は、「『為信集』成立年代の再検討」と題して、『中古文学』第104号(2019年11月)に発表した。 また、上記の検討を通し、『為信集』の最古写本とされる天理大学附属天理図書館蔵 伝坊門局筆本「為信集」の書誌的問題が浮かび上がってきた。これはこの家集の成立や享受とも深く関わる問題であると考えられる。これについては、「伝坊門局筆本「為信集」の諸問題」と題し、『就実表現文化』第14号(2020年1月)に発表した。
2.『源氏物語』の解釈において問題となっている箇所について、陽明文庫本源氏物語でどのような解釈が可能かを示し、この伝本を引用したと思われる『源氏物語』摂取歌について報告した。成果は、「陽明文庫本源氏物語の表現世界とその摂取歌」と題し、第303回大阪大学古代中世文学研究会(於:大阪大学)において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、昨年度行った調査を論文2本として発表した。『為信集』は『源氏物語』や平安中期の和歌表現の検討をする上で問題の多い家集であったが、成立年代について新見を示したことで、今後新たなアプローチが可能になると思われる。 また、口頭発表を行った『源氏物語』摂取歌における『源氏物語』自体の諸本異同の問題は、今後享受を考える上で避けられない観点であり、これについても研究の基盤が整いつつある。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、『源氏物語』諸本間の異同と『源氏物語』摂取歌、ひいては『源氏物語』享受の問題について、個別の例を検討していく。これを積み重ねることにより、平安期の『源氏物語』享受を多方面から浮かび上がらせていきたい。成果は順次、論文および口頭発表として報告していく予定である。
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Causes of Carryover |
研究計画を実施するにあたり、『源氏物語』および歌集の諸本をより慎重に精査し、享受実態を明らかにする必要があることが判明した。諸本同士の関係の中に享受実態を位置づけることにより、より立体的な平安時代の『源氏物語』享受が浮かび上がってくるものと考える。しかし、2019年度中に調査を行えなかったため、次年度使用額が生じた。2020年度は各文庫へ赴いて資料調査し、上記の検討を行う。
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Research Products
(3 results)