2018 Fiscal Year Annual Research Report
Empathy in British Modernism
Project/Area Number |
18H05592
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
岩崎 雅之 福岡大学, 人文学部, 講師 (00706640)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | モダニズム / 共感 / ヴァージニア・ウルフ / E. M. フォースター / ロジャー・フライ / 同情 |
Outline of Annual Research Achievements |
ブルームズベリー・グループの活動の分析し、イギリス・モダニズム文学における共感の変遷を明らかにするという本研究の目標を達成するために、現在、ヴァージニア・ウルフとロジャー・フライの作品を中心に研究を進めている。 まず、1年目に当たる2018年度は、研究テーマに沿い、1940年にウルフによって執筆された『ロジャー・フライ伝』を研究対象として選定した。この伝記は、晩年におけるウルフの、共感を通じた他者理解を考察する上で格好のテクストとなっている。伝記という様式に従い、主体に対する理解を十分に示しながらも、ウルフはフライに対する共感の拒否も示す。特にそれは男性/女性、個人/集団の理解において顕著になる。この点には、先行研究で論じられてきた、モダニズム文学における共感の終焉と符合する点があると言えるが、同時に、共感と他者理解の不可能性の、より複雑な両義性も見て取れる。こののち、ウルフは遺作となる『幕間』を執筆するが、この作品では動物に対する理解へと、共感の幅が広げられている点を指摘しておかなければならない。 このような研究内容は、2018年6月に行われた、共感をテーマにして開催されたModernist Studies in Asia (香港)にて、"Virginia Woolf's Empathetic Writing in Roger Fry and Between the Acts"と題して発表された。フロアからは建設的なコメントや質問をもらうことができ、共感に関する歴史的理解を深めることができた。この発表で得られた指摘をもとに内容を修正し、Aiatic Society of Japan(東京)において、"Virginia Woolf, Post-Impressionism and Empathy"というタイトルで研究報告を行った。今後の研究の指針となるような、批判的コメントを手に入れられた。 今後の課題としては、やはり、共感という歴史的概念が果たしてこれまで論じられてきたような終焉の迎え方をするものなのかを、批判的に検討する必要が挙げられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初から計画していた通り、晩年のウルフの作品を通じた共感の分析が、必要な程度達成できた。『ロジャー・フライ伝』では、第二次世界大戦の影響下にありながら、共感がどの程度可能なのかという歴史的難問に、ウルフとフライがどのように向き合っていたのかが記されている。その際に重要になってくるのが、芸術作品であることもわかった。この発見によってウルフの姿勢が明らかになり、また、年代を遡りながら、同情という類似の概念との差異を発見し、批判的に検討することも可能になっている。ただし、意識の流れのようなモダニズムを代表する手法に関する議論との接合がまだ不十分であるため、その点は早急に解決したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、モダニストたちの使用していた実験的手法と、共感の表象がいかに結び付くものであったかを明らかにするために、共感の歴史的変遷を遡行しながら、ヴィクトリア朝時代まで盛んに使われていた同情という概念との差異を明らかにし、当時の文学との相違を社会における自己と他者という観点から検証する予定である。その際に、教養小説をベースとしたE. M. フォースターの作品も対象に含めながら、他者理解のあり方を多角的に精査する。現段階で、アダム・スミスやデイヴィッド・ヒュームの活躍した時代から、同情という用語がどのように使用されてきたかを、政治・経済・社会の観点から理解する必要があることが想定されている。
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