2019 Fiscal Year Research-status Report
『封神演義』版本研究――主要版本における本文の継承関係と出版背景の考察
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19K20807
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
岩崎 華奈子 九州大学, 人文科学研究院, 専門研究員 (30822887)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 封神演義 / 明代 / 白話小説 / 出版 / 周之標 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に引き続き『封神演義』主要版本の校勘を実施し、あわせて本小説の成立・出版背景の研究にも注力した。一部の版本には周之標という人物による序文が掲載されているが、従来ほとんど注目されたことが無い。報告者は過去の研究で、周之標が万暦44~順治10年(1616~1653)の間、蘇州を中心に、特に戯曲・散曲の選集や曲譜の編纂を行っていたこと、天啓・崇禎年間には戯曲作家や挙業書の編纂者として知られていたことを明らかにした。交友関係については、通俗文学の旗手と言える馮夢龍と親交があったことがわかっている。本年度の本研究課題においては、これら周之標の事績や交友を踏まえつつ、序文の内容分析を実施した。 『封神演義』周之標序は、五行思想を多く論じ、主人公格の姜子牙を批判する内容である。おそらく姜子牙批判は武装反乱に対する反対を、五行思想の多用は為政者への警告を表明したものであろう。周之標は小説に描かれた殷周革命から明末当時の社会問題へ意識を発展させたのである。他著の序文と比較して、彼は本小説の編纂や出版に直接従事せず、依頼を受けて序文を書いたと推測される。出版者が広告効果を期待して周之標に序を依頼したとすれば、ターゲットとされた読者層は彼の文名を知る人々、すなわち戯曲・詞曲の愛好家や科挙受験者だったのではないかと考えられる。周之標序は、彼を序文撰者に据えた書坊(提供者)と、周之標という読者(受容者)、これら二つの視点から見た、当時の『封神演義』に対する認識を示すものである。 その他、9月に北京を訪問し複数の図書館で文献調査を実施した。特に人民大学図書館にて周之標編『四六カン[玉偏に官]朗集』、中国国家図書館にて清抄本のチョ[示偏に者]逢椿『清籟閣集』を閲覧調査した。いずれも海内の孤本である。次年度に考察を加え成果を公表したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は主に出版背景の調査を実施した。序文著者周之標の事績調査は当初の計画に含めていなかったが、これにより周之標序を有する版本が出版された時期やターゲットとされた購買層などの推定につながり、大きな進展を得ることができた。 各版本の校勘作業は昨年度から継続して行っている。舒本・清籟閣本・徳聚堂本の三者校勘は当初全葉校勘を行う予定だったが、各本の傾向はおおよそ把握出来たことから、全体の60%程度を完了したところでひとまず中断している。本衙蔵板本・四雪草堂訂正原本および中国国家図書館所蔵零本の複写印刷を完了し、舒本・清籟閣本・本衙蔵板本・四雪草堂訂正原本に着手した。この四者校勘は全葉の20%程度を終えており、今後も継続して実施する。 なお織田文庫本(無窮会所蔵)と舒本・徳聚堂本の校勘を実施したいところだったが、昨年度に続き今年度も織田文庫本の入手が叶わなかった。該本の複写を蔵する図書館に再複写を相談し、無窮会の許可が下りれば可能との返答をいただいたが、再三無窮会へ連絡を試みたものの具体的な回答が得られていない状況である。無窮会は現在書庫の修復や蔵書整理等のため閲覧や複写を中止しており、閲覧可能になる時期も不明である。今後、再複写の許可も下りない可能性を考慮し、当初予定していた校勘の計画を見直す必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
織田文庫本入手の見通しが立たないため、織田文庫本と同様の特徴をもつ、中国国家図書館所蔵の上図下文文簡本を利用することを計画している。該本のマイクロフィルム書影がオンライン公開されており、既に印刷して校勘作業の準備を整えている。但し、この版本は巻八のみが残存する零本である。そのため全葉校勘はできないが、異動の傾向をある程度把握することは可能と考えている。 また、これまでは文繁本と文簡本の関係を重視して校勘していたが、今後は文繁本内の系統解明に繋がる校勘を実施したい。テキストの継承関係との関連が窺われる周之標序の掲載状況に鑑み、清籟閣本と本衙蔵板本(周之標序あり)、また四雪草堂訂正原本(版心下に「四雪草堂」、周之標序なし)を校勘して、それぞれの文繁本の特徴と関係性を明らかにしたい。 現在着手している調査および今後着手予定の校勘が完了次第、本研究課題全体の総括を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2020年に入って発注した図書のうち、中国からの取り寄せとなったものが、新型コロナウィルス流行によって生じた国際輸送の滞りにより年度内に到着せず、やむなくキャンセルした。次年度に改めて発注する。
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