2019 Fiscal Year Annual Research Report
モーツァルト家三世代の書簡に関する言語意識史的研究
Project/Area Number |
19K20810
|
Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
佐藤 恵 獨協大学, 外国語学部, 専任講師 (50820677)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ドイツ語史 / 歴史社会言語学 / 歴史語用論 / 言語の標準化 / 言語規範 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者自身が作成した「モーツァルト三世代書簡60万語データ」をもとに、2018年度は量的分析を、2019年度には質的分析を行った。その結果、非標準的な東上部ドイツ語(オーストリア方言)的異形の使用に関しては、次のことが判明した。(1)モーツァルトの母アンナが、東上部ドイツ語的異形を家族内で最も多く使用している。(2)モーツァルトが故郷ザルツブルクに見切りをつけた1777年の前と後の書簡を比較すると、1777年以降のモーツァルトの書簡において故郷の東上部ドイツ語的異形が減少している。(3)受け手が家族である場合に、東上部ドイツ語的異形が多く確認される。家族以外であっても、親密な人間関係にあった相手に対しては東上部的ドイツ語異形が多く確認される。 父レオポルトのドイツ語が標準文章語に最も近いのは、教育の程度の違いに由来すると考えられる(社会言語学的変数)。ただし、父レオポルトも、書簡の内容や文通相手によって非標準的な東上部ドイツ語的異形を交えて書いている(語用論的変数)。さらに、モーツァルト三世代の言語使用を通時的に観察すると、19世紀を生きた二人の息子カールとフランツは、兄弟同士の書簡であっても一貫して標準文章語で書くことを実践している。このことは、19世紀前半のオーストリアにおいては、教養人の場合、標準文章語が個人的書簡という私的空間においても普及していたことを意味している。つまり、18世紀後半を生きたモーツァルトや父、姉にとって東上部ドイツ語的異形は近しさ、インフォーマルさを表すものであったが、モーツァルトの息子たちの時代になると、東上部ドイツ語的異形に対して社会的に低い評価が下されたため、兄弟間の書簡においてすらこの非標準的異形を使用しなかったものと考えられる。
|
-
-
-
-
[Book] Historische Soziolinguistik der Stadtsprachen. Kontakt - Variation - Wandel2019
Author(s)
Simon Pickl, Stephan Elspass, Arend Mihm, Nikolaus Ruge, Anita Auer, Rudolf Steffens, Helmut Graser, B. Ann Tlusty, Megumi Sato, Markus Schiegg, Jill Puttaert, Iris Van de Voorde, Rik Vosters, Markus Denkler.
Total Pages
230
Publisher
Universitaetverlag Winter Heidelberg
-