2018 Fiscal Year Annual Research Report
Fundamental research on linguistic modality in endangered languages in the Ryukyus
Project/Area Number |
18H05611
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Okinawa National College of Technology |
Principal Investigator |
崎原 正志 沖縄工業高等専門学校, 総合科学科, 講師 (30828611)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 琉球諸語 / 沖縄語 / 国頭語 / モダリティ / 確認要求 / 終助辞 / 表出法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、沖縄県首里方言の包括的なモダリティ研究の分析結果に基づき、他の琉球諸語にも応用可能なモダリティ調査票を作成するための基礎的な研究を実施することを目的として、平成30年度は下記の内容で研究を行った。 1.【具体的な内容】沖縄語に属する「宜野湾市宜野湾方言」、国頭語に属する「本部町山里方言」および「今帰仁村謝名方言」の実地調査を行い、積極的に用例の収集に努めた。名詞述語・形容詞述語・動詞述語文のモダリティ体系を明らかにするために、それぞれの文の用例を調査票を用いて網羅的に収集した。また、「表出法」「前提・注目・思い出させる・気づかせる文」「終助辞」に関しても用例を集めながら、分析を行った。用例の収集後、データを整理し、データベース化した。 2.【研究成果】次のaとbの2点が明らかになった。a.「表出法」に関して、九州方言の「赤か」ような明らかな形は見られないと結論付けた。近い形として「アカサヨー(赤いね!)」という形の他に、「アカサヌ(赤い!)」という〈驚き〉を含む形、「アカセーサー/アカサッサー」等の形が場面に応じて微妙なニュアンスを変えて用いられていた。また、「(文に対する聞き手の)既知・未知」および「前置き・働きかけ」という2つの観点から「前提・注目・思い出させる」の他に「気づかせる」という文を追加し、「前提=既知・前置き」「注目=未知・前置き」「思い出させる=既知(ただし忘却)・働きかけ」「気づかせる=未知(気づいていない)・働きかけ」のように分類した。 3.【意義・重要性】沖縄・国頭両語では、表出法の分析でみるように、ムード形式のあわられ方が体系的ではなく、歴史的な変化によって複雑な様相を見せる。また「確認要求」という用語を用いず、叙述文の一種として、「既知・未知」「前置き・働きかけ」という観点から分析する方法は従来の日本語研究に大きく貢献する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の研究達成計画は下記の通りであった。 1. 宜野湾・山里・謝名の3地点の面接調査を実施し、用例を収集する。 2. 名詞・動詞・形容詞述語文を網羅的に調査する。 3. 表出法、前提・思い出させる・注目の文、終助辞について調査する。 4. データをデータベース化する。 1, 2, 3, 4の全てを達成することができた。(1)用例の収集は、面接調査だけでなく、研究論文や刊行書籍等、既存の資料からも多数得ることができた。(2)これまでの研究では動詞述語文に焦点をあてて実施してきたため、名詞および形容詞述語文の用例を優先して収集した。(3)その結果、形容詞に関わる表出法に関して、定まった語形がなく、いくつかの語形が場面に依存して使い分けられていたことが分かった。さらに、「既知・未知」および「前置き・働きかけ」という観点から前提・思い出させる・注目の他に「気づかせる」文を設定する必要性があることが分かった。(4)それぞれのデータを調査地点・話者・調査項目が分かるようにデータベース化し、問題点や今後調査すべき点を整理し、来年度の調査に繋げられるようにした。さらに、上に挙げた計画以外に、研究成果を研究会で発表することができた。従来「確認要求」と呼ばれてきた文を「前提・注目・思い出させる・気づかせる」という4つの文に分類し、その分類方法や分析方法について、沖縄言語研究センター総会にて研究発表を行った。「確認要求文」を「叙述(物語)文」に位置づけ、新たな分類方法を提示した点が日本語研究にも寄与できるとして評価された。また、文法研究のかたわら、琉球諸語研究の意義の追求のため社会言語学的な研究も行っており、「ネオ沖縄語」について国際学会で発表を行うことができた。このように、1, 2, 3, 4の全てを達成できただけでなく、計画以上の成果が得られたため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の課題と推進方策については次の通りである。 1. 全体として謝名方言の用例が少ないため、当該方言の用例の収集を集中的に行う。 2. 新たに設定した「気づかせる」文について補完的な調査を行う。 3. 全てのデータを取りまとめ、各方言の特徴や各文法事項を分析、論文にまとめる。 4. まとめたものを学会や研究会で発表する。 (1)謝名方言話者との調整が不十分だったため、再度調整を行い、積極的に用例を収集する。その際、後述するように、名詞および形容詞述語文のモダリティ分析が遅れているため、名詞および形容詞述語文を主に用例を収集する。収集したデータは文字化し、学術雑誌にデータ提供という形で投稿する予定である。(2)研究当初は未設定であった〈未知(=気づいていない)・働きかけ〉を表す「気づかせる」文については、用例が少ないため、補完的な調査を行い、用例を収集する。(3)2019年度は、データの分析と論文執筆に尽力する。現在、本研究において名詞述語文に関する分析が貧弱なため、分析を進める。名詞および形容詞述語文のモダリティに関する研究は、管見の限り皆無なため、日本語の文法研究にも大きく寄与できる。さらに、文の主な3つのタイプ(叙述文・命令文・質問文)のうち、叙述文と質問文については、「前提・注目・思い出させる・気づかせる文」や「終助辞」と密接な関係があることが明らかになってきたため、叙述文と質問文の関係についても今後さらなる調査・分析を実施する。(4)論文執筆の妨げにならない程度に研究発表等も行いつつ、研究成果を学術誌に投稿する。
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Research Products
(3 results)