2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18H05615
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
根本 みなみ 筑波大学, 人文社会系, 特任研究員 (70824324)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 萩藩 / 官位 / 大名家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は史料調査を中心に行った。まず、主要な分析対象となる萩毛利家の藩政史料及び家臣の家の伝来文書を所蔵する山口県文書館において、18世紀末以降の官位昇進運動のなかでも10代斉熙、11代斉元、12代斉広の3代の官位昇進運動に関わる史料の撮影収集作業を行った。これらの史料をもとに、大名家側が官位の昇進を求める論理を明らかにするとともに、官位の昇進という大名家の慶事が家臣団全体にどのように共有されていったのかという点について分析を行った。 また、官位の昇進に対する家臣側の反応について分析するため、山陽小野田市立厚狭図書館所蔵の萩毛利家家老の厚狭毛利家文書の調査を行い、同館の所蔵する「代官所日記」「御用所日記」の調査撮影を行った。さらに、新たな調査先として山陽小野田市立歴史民俗資料館で厚狭毛利家の家老であり、萩毛利家にとっては陪臣にあたる二歩家文書の調査撮影を行った。このことにより、大名-家臣-陪臣という帰属集団としての「御家」の階層に基づき、大名の官位昇進がどのように位置づけられていったのか実証的に分析することが可能となった。 比較分析対象とする弘前津軽家についても、史料調査を行った。これらの大名家文書の調査に際しては、当該大名家がどのように自分や他者の所属する「御家」を捉えていたかという点とあわせて、主要分析対象とする萩毛利家の動向に関わる言及を明らかにすることを通し、「御家」に対する自己認識とともに、他者理解についても分析を行った。 本年度はこれらの調査を中心にし、近世後期の大名家内部で官位昇進が指向される動向の実態を明らかにするとともに、多額の費用負担を必要とする官位昇進運動を、帰属集団としての「御家」全体の「慶事」として変換していく回路の解明を行った。この成果は、地方史研究協議会例会において報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は史料の調査を中心として進めたが、当初の想定以上の史料を撮影収集することができ、次年度以降の研究の進展させる基盤を十分に整えることができた。 また、本年度は地方史研究協議会研究例会で本年度の収集史料及び研究成果を報告する機会を得た。この報告を通して、近世史研究者からの評価を受け、次年度以降の研究の方向性について意見を聞くことが出来た。これらによって、本年度の成果に対する中間的評価を受けるとともに、次年度以降の研究の進展と研究課題の完成に向けた見通しをたてることが出来た。この報告において得られた成果については、現在論文という形での研究成果の公表に向けて準備を進めている。 また、その他に収集した史料に分析による成果報告についても、史料の所蔵館との交渉を進めるとともに、次年度も継続して調査を行う承諾を得ており、次年度以降の調査と研究成果の公表が十分期待される。 以上の点を以て、本年度は当初の計画以上の進展が得られたと評価することが出来る。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は一年目の補足調査を行いながら、史料調査の成果及び一年目の学会報告の成果を踏まえ、研究課題の完成を目指す。 具体的には前年度から継続している山口県内での史料調査を行う。前年度以来継続している山口県文書館における調査を行い、一年目の史料調査及び学会報告において課題となった部分の補足調査を行う。また、山陽小野田市立歴史民俗資料館における二歩家文書の調査を行い、昨年度から継続している史料の収集作業を完了させ、大名の官位昇進に対する陪臣の家の理解について分析を行う。これらを通し、18世紀後半から19世紀前半における大名家において、大名の官位昇進がいかなる意味を付与されたのかという点について「御家」の構成員の視点から明らかにしていく。 また、比較分析対象としている弘前津軽家の所蔵史料の調査についても、弘前市立図書館において継続していく。このことにより、主要分析対象とした萩毛利家の特殊性・普遍性について分析するとともに、当該期の武家社会内部における官位昇進の意義について考察を行う。 以上の分析を通し、大名・家臣を包括した「御家」という枠組みが、18世紀後半から19世紀前半という社会変容のなかで捉え返される過程を動態的に明らかにしていく。この点を解明することで、近世後期から幕末期にかけての社会が大きく変容していった中において、幕藩体制の成立過程において形成された「御家」という近世的秩序の展開を展望する。
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Research Products
(1 results)