2018 Fiscal Year Annual Research Report
相続にみる日本中世の寺院社会と公家・武家社会との関係性 ―付法状に着目して―
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18H05620
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
巽 昌子 お茶の水女子大学, グローバルリーダーシップ研究所, 特別研究員 (90829326)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 相続 / 付法状 / 日本中世史 / 寺院・公家・武家社会 / 醍醐寺 / 法流 / 院家 / 比較研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は寺院社会の独自性の解明と、公家・武家社会との関係性の追究を通して、日本中世における寺院社会の位置づけに再検討を加えるものである。 はじめに、日本中世の寺院社会における法流と院家の相続を詳細にたどることによって、寺院社会の特質を捉える。次にそこで詳らかになった寺院社会の独自性を基に、寺院社会と公家・武家社会との関係性を探る。ここでは寺院社会と公家・武家社会の相続の比較、および寺院社会の相続時にみられる世俗権力からの安堵に焦点を当てるという、ふたつの観点からの検討を試みる。 この目的の達成に向けて、研究一年目にあたる平成30年度は、寺院社会の相続の解明に取り組んだ。法流とその拠点となる院家に着目することによって寺院社会の相続の独自性を明らかにし、公家・武家社会の相続との比較に臨むための基礎を形成した。具体的には醍醐寺における法流の相承に着目した研究を行い、そこで得られた研究成果は査読付き論文として『お茶の水女子大学 人文科学研究』第15巻に公表した。 このほか、来年度実施する寺院社会と公家・武家社会の相続の比較に向けて、様々な専門領域の研究者を報告者として迎えた研究会および公開シンポジウムを主催した。巽による日本中世史の報告のほか、山岸裕美子氏(群馬医療福祉大学 教授)には日本服飾史、内田澪子氏(お茶の水女子大学 研究協力員)には日本説話文学、鈴木佑梨氏(お茶の水女子大学・ロシア国立人文大学 博士後期課程)にはロシア近世史の観点からのご報告を行っていただいた。各報告の後にはそれらを受けた討議を報告者全員とシンポジウムの参加者とで行い、「継承」をテーマとした学際的研究に挑戦した。本シンポジウムは学際的研究に必要な研究者同士のネットワーク形成はもとより、継承、相続といった問題に対する視野を広げるという点からも非常に有益なものとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究計画では、まず①付法状固有の役割に着目し、公家・武家社会とは異なる寺院社会の特質を捉え、その上で公家・武家社会との関わりが強まる南北朝・室町期以降の事例に焦点を当て、疑似的「家」である院家の変容を探究することとした。次に来年度に取り組む、寺院社会と公家・武家社会の比較および両社会の関係性の追究への準備として、②服飾史や日本文学等、隣接分野の研究者との研究会を開催し、比較研究の手法の習得ならびにそのために必要な研究者間のネットワークの構築を試みるとした。 上記の計画に即して研究を行い、得られた具体的な成果は下記の通りである。 はじめに寺院社会の特質の解明に向けて、①付法状という寺院社会特有の文書の役割を解明した拙稿「付法状の役割と作成意義」(『日本史研究』671号、2018年7月)の成果を基に、南北朝・室町期以降の事例にも視野を広げて院家の変容を詳らかにした。その研究成果は論文「醍醐寺報恩院における法流と院家の相承」として、査読付き学術誌『お茶の水女子大学 人文科学研究』第15巻(2019年3月)に投稿し掲載された。 次に来年度行う寺院社会と公家・武家社会の比較のために②学際的研究に着手し、日本中世史のほか日本服飾史や日本説話文学、ロシア近世史の研究者を招いた公開シンポジウム「「継承」の比較史」(2019年2月)を主催した。当初の計画では研究会のみの実施を予定していたが、共同研究が想定以上の進展をみせ公開シンポジウムとして結実した。報告には巽による寺院社会の継承と文書に関するもののほか、服飾の観点から血縁関係に限定されない継承の在り方を探ったもの、寺院社会における説話の継承を扱ったもの、外交の視点に立って継承を捉えたものがあった。報告後に報告者と参加者による討議を行った結果、継承・相続に対する研究視野が広がり、来年度の比較研究に向けて有益な知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は法流と院家に着目することによって寺院社会の特質、独自性を解明し、公家・武家社会の相続との比較に臨むための基礎を形成した。そこで詳らかになった寺院社会の特質を基に、来年度は寺院社会と公家・武家社会との関係性を探る。ここでは寺院社会と公家・武家社会の相続の比較、および寺院社会の相続時にみられる世俗権力からの安堵に焦点を当てるという、ふたつの観点からの検討を試みる。 はじめに、寺院社会と公家・武家社会の相続の比較を通して各社会の共通点と相違点を詳細に捉え、法流によって結びつき、構成されていた寺院社会の疑似的「家」の在り方を鮮明化する。次に、相続時における朝廷・幕府からの安堵に注目する。引き続き付法状を基に、醍醐寺と世俗権力とのつながりを捉えていく。醍醐寺において、各院家と世俗権力との関わりが極めて深まる時期が両統迭立期から南北朝期であることから、この時期の安堵を基に世俗社会との関係性を明らかにし、寺内における院家の上下関係について考察を加えたい。具体的には三宝院や報恩院等の事例からその様相を明らかにし、研究成果は査読付き学術誌への投稿論文にまとめる予定である。 また血縁に基づかない疑似的「家」は寺院社会のみならず、世俗社会でも構成されていた。例えば芸能集団がそれに該当するが、そうした集団の相続との比較も、本研究の進展に有益と考えられる。そこで今年度に実施した公開シンポジウムの成果を基に、引き続き隣接分野の研究者と研究集会を行うなど、相続の様々な在り方を探る比較研究に取り組み、多角的な視点から日本中世の寺院社会の位置づけを考察する。 以上のような研究に取り組み、寺院社会と公家・武家社会の関係性に検討を加えることによって、日本中世における寺院社会の役割や位置づけを問いなおし、ひいては寺院社会と公家・武家社会全体の特質の探究にまで研究が展開することを目指す。
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Research Products
(4 results)